全無響電波暗室(FAR)の設計と評価(月刊EMC)

2019.4.24 更新
全無響電波暗室(FAR)の設計と評価(月刊EMC)

【大型複写機(約1t)の EMI 測定風景】

 壁、天井、及び床に電波吸収体が配置された全無響電波暗室(FAR)は、主としてアンテナの各種評価測定、レーダー反射断面積(RCS)測定、スマートフォンなどのワイヤレス機器の通信評価測定(OTA: Over the air)などに用いられてきた。一方で、CISPR 16-1-4 Edition 3.0、IEC 61000-4-22 Edition 1.0及びCISPR-32 Edition 1.0の規格では30MHz ~ 1GHz 以下、1GHz ~ 18GHz の両周波数帯でFAR におけるEMI 測定及び暗室評価方法について記述されている。

 また、FAR ではEMI 測定時に受信アンテナを上下に掃引する必要がなく、半無響電波暗室(SAC)と比較して測定時間を短縮できるメリットがある。このような背景により、まだ件数は少ないもののEMC 測定用設備としてFARも徐々に使用されるようになってきている。本稿では、床置き大型複写機のEMC コンプライアンス測定が可能なFAR の設計、電波暗室特性、実機測定による半電波無響室(SAC)との相関性の検証について述べる。

大型床置き複写機に対応できるFAR の設計コンセプト

 暗室サイズはシールド内寸が8.7m(W)×13.0m(L)× 7.0m(H) 、EUT 設置床面はシールド床から1.5m の高さで、測定距離は3m 及び5m に対応している。設計コンセプトとして、SAC と同様に暗室内へのEUT(重量1t の大型複写機)の搬入及びターンテーブルへの設置が出来ることを最優先とした。そのため、1tの耐荷重に耐えられるように、FAR 内のEUT 設置エリアを以下の多層構造で構築した。

 ① ポリカーボネイト(天板)
 ② 発泡樹脂
 ③ 電波吸収体(フェライト複合型、FS-1001H、長さ1m)
 ④ シールド床面

 天板に使用したポリカーボネイトは十分な機械的強度を持っているが誘電率が3 程度であることから、1GHz 以上の高周波帯域においては床面の反射による影響を与えることが懸念された。1GHz 超の測定に関しては、マイクロ波吸収体設置領域に、吸収体(EHP-12PCL、高さ30cm)を補助的にEUT-アンテナ間に配置する設計とした。1GHz 以下の測定ではマイクロ波吸収体をFAR 外に持ち出す必要はなく、EUT設置エリアのコーナ部に収納することが出来る。

 後述するFAR 特性評価をする際にも、マイクロ波吸収体をFAR 内に収納した状態とした。また、同様に反射の要因となるEUT 用電源ケーブル等に対しては、反射抑制対策としてフェライトコアを取り付けている。

 アンテナマストが設置されるエリアは、電波吸収体(FS-1001H, 1m 長さ)に発泡スチロール製保護キャップが取り付けられているだけで、ポリカーボネイトは敷設されていない。測定用アンテナマストは前後方向に移動出来るようにスライダー上に取り付けられており、FAR 内に入らなくても計測室でアンテナマストの位置を制御することができる。更に、計測室側からEUT 設置領域の間には歩行路が設けられているため、EUT へのアクセス及びアンテナ交換も容易である。

続きは『月刊EMC No.372』にて


【月刊EMC No.372 目次情報】

<新製品とEMC>
・無線LAN アクセスポイント「WLX313」
 (ヤマハ(株))
・マルチメディア機器のエミッション規格の解説と今後の動向
 (情報通信審議会情報通信技術分科会 雨宮不二雄)

<特集>
◇IoTとEMC
・ー電気学会/調査専門委員会設立ーIoT時代のシステムとEMC~今後の展開~
 (愛媛大学 都築伸二)
・東京電力のIoTに関する取り組みー東京電力グループの取り組みと活用例の紹介ー
 (東京電力ホールディングス(株) 石毛浩和)
・IoTに必須の環境型発電ー環境磁界発電 原理と設計法ー
 (信州大学 田代晋久)
・狭帯域電力線通信のIoT活用に向けた取り組み
 (住友電気工業(株) 下口剛史)

<Technology>
・大電力ワイヤレス給電とEMC対策
 (早稲田大学 高橋俊輔)
・全無響電波暗室(FAR)の設計と評価
 (日本イーティーエス・リンドグレン(株) 島田一夫、(株)リコー 飯田修次)

<New&Now 規格・規制情報>
・IoT住宅における機能安全国際規格開発の現状報告
 ((国研)産業技術総合研究所 関山守、小島一浩)

<実践講座>
・回路網を用いた広帯域PLCの信号伝送特性と漏洩電磁界特性の解析②
 屋内配電線の回路網パラメータ決定方法
 (九州工業大学 桑原伸夫)

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