【IEC 61000-4-2】静電気イミュニティ試験と輻射ノイズ解析実験(月刊EMC)

2019.7.10 更新
【IEC 61000-4-2】静電気イミュニティ試験と輻射ノイズ解析実験(月刊EMC)

【ESD ガンの内部構造と輻射ノイズ発生のイメージ】

 寒い乾燥した季節に、ドアノブに触れて指先に「パチッ」と電流が走る現象は誰しも経験があるのではないだろうか。人体は地面との間に存在する寄生容量により、歩行などの行為を通して帯電する。帯電した人の指が、ある距離まで金属に接近すると、その電位差によって空気の絶縁破壊が起こり、火花放電が発生する(これを気中放電と呼ぶ)。このとき、人体と金属にはインパルス性の電流が流れ、また、この電流の急峻な変化により電磁界が発生する。

 ESD 試験はこのような現象を模擬した試験であるが、気中放電は温湿度や電極(帯電した人の指)を近づける速さ、EUT の表面状態などの要因によって大きな影響を受けるため、再現性が求められる試験の方法としては好ましくない。そこで、IEC 61000-4-2 では、これらの気中放電に起因する不確定性を排除した接触放電を主な試験方法として規定している。しかし、この規格の制定後の接触放電においてもESD ガンの違いによって試験結果にばらつきが出ることが報告されており、その要因の一つとして挙げられるのが、ESDガンからの輻射ノイズである。

 後述するプロセスでESD 内部のリレーから発生する電磁界は、規格の本来の目的である人体からの放電を模擬するものではなく、ESD 試験にとって意図しない不要なノイズでありまた、その輻射ノイズのレベルはESD ガンの構造に大きく左右されると考えられる。現状の規格ではこの輻射ノイズについての規定や評価方法が定められておらず、そのため、使用するESD ガンによって試験結果に差が出る可能性がある。

輻射ノイズ発生のプロセス

 ESD ガンの内部構造と輻射ノイズ発生のイメージを図に示す。接触放電においてESD ガンから輻射ノイズが発生するプロセスは以下のように考えられている。

① ESD ガンの放電電極の先端は、(多くの場合)EUT の接地部分に接触される。
②放電の前に、ESD ガン内部の充電リレーを閉じることによってコンデンサに電荷が充電される。
③ ESD ガン内部の放電リレーを閉じることによって、放電が開始される。この特別なリレーの設計により非常に再現性の高い放電電流を実現にしているが、このリレーはEUT との接点ではなくESD ガンの内部にあるため、放電電流の流れの始まりは人体からの放電とは全くもって異なる。
④リレー内の電圧の降下時間は100ps 未満と非常に短く、全方向に、また全ての接触している金属部やそれに近接している他の金属部に対して、リレーから光速で(誘電体の内部では速度が落ちるが)伝搬する電流の波を発生させる。そしてこの電流の波の立ち上がり時間はリレー内の電圧の降下時間に等しい。

続きは『月刊EMC No.375』にて


【月刊EMC No.375 目次情報】

<新製品とEMC>
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<特集>
◇静電気放電対策:国際規格動向からESD現象測定、保護デバイス評価、ESD対策まで
・静電気放電試験の国際規格IEC 61000-4-2の問題点と最新改正動向
 ((株)ノイズ研究所 石田武志)
・光電界センサ/光電圧プローブによるESD影響の測定
 ((株)精工技研 大沢隆二)
・ESD/EMC対策部品のTLP試験
 (阪和電子工業(株) 澤田真典)
・ESD対策部品の適用
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<Technology>
・5Gを活用した自動運転の展望とEMC
 (情報通信研究機構(NICT) 石津健太郎、表昌佑、村上誉、児島史秀)
・EV/PHEV用ワイヤレス給電のためのEMC対策
 ((一財)電力中央研究所 名雪琢弥)

<New&Now 規格・規制情報>
・TEM導波管による放射エミッション測定及び放射イミュニティ試験方法等
 (東北学院大学 石上忍)
・静電気イミュニティ試験と輻射ノイズ解析実験
 ((株)東陽テクニカ 秋田大地)

<実践講座>
・事例からひもとくEMC設計・対策そして基礎 ⑦
 EMC標準化の意義を考える
 ((株)ノイズ研究所 石田武志)
・パワーエレクトロニクスとノイズ対策 ⑤
 グラウンドに起因するノイズ、コモンモードチョークコイルほか
 (大島研究所 大島正明)

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