印刷プロセスで実現可能な有機半導体集積回路と電子ノイズ(月刊EMC)

2019.8.28 更新
印刷プロセスで実現可能な有機半導体集積回路と電子ノイズ(月刊EMC)

【共有結合性である無機半導体と弱い分子間力で結合した有機半導体の比較】

 プラスチックやゴムなどに代表される「有機物化合物」は、機械的な柔軟性を有するだけでなく、電気的絶縁体として、現代社会に欠かすことのできない基盤材料の一つである。一方で、有機化合物 = 絶縁体という常識を覆し、有機化合物が半導体的な性質を有することが1954 年、赤松・井口・松永らによって始まり、白川らの導電性高分子の発見に繋がった。その後、有機超伝導体や有機磁性体などが次々に開発され、有機化合物は優れた機能性を有する電子材料として、基礎からデバイス応用まで幅広く研究開発が展開されてきた。

 有機半導体の多くは、分子が弱いファンデルワールス相互作用で凝集した集合体を形成し、室温付近の比較的低い温度で分子結合を分離・最構成することが可能である。したがって、適切に設計された有機半導体は一般的な有機溶媒に溶解する特徴を有する。この「半導体インク」はインクジェットプリンティングなどの印刷プロセスに適用可能であることから、有機半導体はプリンテッドエレクトロニクスを実現しうる革新的な基盤材料となり得る。シリコン結晶を作製する際の温度が数百度であることを鑑みると、低温での印刷プロセスを実現しうる有機半導体は既存の電子材料と比較して、圧倒的な優位性を有する。

 一方で、有機半導体の結合の弱さは複数の分子に渡り電子を輸送する際には、不利となる。一般的に、強い共有結合を有するシリコンと比較して、有機半導体の結合の強さは10 分の1 程度であり、これに起因し、電子の輸送能力の指標である移動度は、シリコンと比較して圧倒的に低いのが常識であった。近年、急速な合成化学の進展と有機半導体の電子輸送の物理モデルが整備された結果、高い溶液プロセス性と高い電子輸送性能を両立する材料が次々と報告されてきた。

 本稿では、まず溶液プロセスが可能な有機半導体の最先端の材料開発を紹介し、特に簡便な印刷プロセスを用いて薄膜作製が可能となった有機半導体単結晶材料に着目する。結晶粒界のない単結晶を用いることで、電界効果移動度(電子デバイスの性能の指標となる電場に応答する電子の移動のしやすさ)は10 cm2 V−1 s−1 を超え、実用化を見据えた集積論理演算デバイスの開発が可能となった。次に、ウエハースケールの高品質単結晶薄膜の成膜を可能とした基盤技術を解説し、高速有機集積デバイスの一例を紹介する。最後に、有機デバイスにおいてこれまであまり注目されていなかった電子ノイズについて最新の研究結果を紹介する。

続きは『月刊EMC No.374』にて


【月刊EMC No.374 目次情報】

<特集>
◇サージ防護デバイスの最新標準化動向
・最新のサージ防護デバイス・部品に関わるIEC国際標準と今後の取組み
 ((株)NTT ファシリティーズ 佐藤秀隆)
・太陽光発電システムに適用する直流用SPDの要求性能とその試験方法
 (音羽電機工業(株) 赤穂智章)
・第22部:通信及び信号回線に接続するサージ防護デバイス(SPD)の選定及び適用基準
 (白山商事(株) 西澤滋)
・太陽電池設備に接続するSPDの選定及び適用
 ((株)昭電 垣内健介)
・低圧サージ防護デバイス用金属酸化物バリスタ(MOV)の試験方法
 (音羽電機工業(株) 塚本直之)
・第352部:通信・信号回線に接続するサージアイソレーショントランス(SIT)の選定及び適用基準の規格解説
 ((株)サンコーシヤ 山田康春)

<Technology>
・印刷プロセスで実現可能な有機半導体集積回路と電子ノイズ
 (東京大学 渡邉峻一郎)
・パターンレイアウトの分布定数線路としての電気特性に着目したプリント配線板のEMC設計
 ((株)トーキンEMC エンジニアリング 原田高志)

<New&Now 規格・規制情報>
・生産現場でのEMC試験―試験における留意点―
 ((株)イーエス技研 中西淳)

<新製品とEMC>
・dynabook G シリーズ
 (Dynabook(株))

<実践講座>
・EMC測定・試験のポイント-1.今更、人に聞けないEMC用語解説
 基本・共通用語⑭
 ダイポールアンテナの実際
 ((国研)情報通信研究機構 藤井勝巳)
・回路網を用いた広帯域PLCの信号伝送特性と漏洩電磁界特性の解析③
 電気機器を表す回路網パラメータ決定方法
 (九州工業大学 桑原伸夫)
・電源ノイズ解析と設計法⑧
 DC-DCコンバータ(バックコンバータ)
 (大阪大学 舟木剛)

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