スイッチング電源のノイズ対策の基本(月刊EMC)

2019.12.11 更新
スイッチング電源のノイズ対策の基本(月刊EMC)

【ハーフブリッジ回路の回路構成】

 スイッチング電源の発展は、高周波化の歴史といってよい。サイリスタを皮切りに、パワーバイポーラトランジスタを経由して、MOSFET やIGBTなどより高速にオン・オフを切り替えることができる半導体スイッチが次々に登場した。その結果、スイッチング電源を高周波で駆動できるようになり、平滑コンデンサやインダクタなどの受動部品を中心に、回路が大幅に小型・軽量化された。近年では、従来のSi ベースのスイッチングデバイスに代えて、SiCやGaNなどの半導体材料を用いることで、より高速なオン・オフの切り替え(スイッチング)ができる半導体スイッチが開発されてきている。

 しかしながら、スイッチング電源では、スイッチングに伴い高周波のノイズが発生する。このノイズはスイッチングノイズと呼ばれ、スイッチングの高速化の結果大きくなる傾向にある。スイッチングノイズは、スイッチングサージ・伝導ノイズ・半導体スイッチの誤点弧に代表されるような大きな問題を引き起こす可能性があり、スイッチング電源の品質を大きく損なう恐れがある。したがって、特に近年では、このような問題は、重要な設計課題となっている。後述のように、スイッチングノイズやそれに伴う問題のメカニズムには、基板配線に寄生するインダクタンスが大きくかかわっており、問題解決には適切な基板配線の設計が必要不可欠である。

 上述の経緯から、近年では基板配線の設計がますます重要視されるようになってきている。しかしその一方で、具体的なスイッチング電源の配線方法について解説する文献は非常に限られており、ノイズ対策のための基本的な配線設計の考え方ですら、スイッチング電源の設計技術者に共有されているとはいいがたい現状がある。

 そこで、本稿ではノイズ対策のための基本的な配線方法を、スイッチングノイズのメカニズムに基づいて解説する。本稿では、スイッチングノイズに伴う代表的な問題として、特に、スイッチングサージ、伝導ノイズ、誤点弧の典型例を取り上げ、それぞれの問題に対して有効な配線方法を解説する。

スイッチングノイズの発生メカニズム

 スイッチング電源は、スイッチングによって電流の経路を切り替えることで電圧を変換する電源回路である。スイッチング電源の大部分は、電流の経路を切り替える機能を実現するためにハーフブリッジ回路を組み合わせて構成されている。なお、以降では、半導体スイッチにMOSFET を用いて説明するが、他のどのような半導体スイッチでも同様の議論が成り立つ。

続きは『月刊EMC No.380』にて


【月刊EMC No.380 目次情報】

<新製品とEMC>
・プロジェクター「MP-WU8801BJ」
 (マクセル(株))
・EN 55032・EN 55035
 マルチメディア機器のEMC規格動向
 (CISPR I 小委員会 国際幹事 堀和行)

<特集>
◇パワーエレクトロニクス装置とEMC
・電力系統の安定運用に協調する分散電源の制御機能
 ((一財)電気安全環境研究所 篠原裕文)
・無停電電源システム(UPS)の最新技術動向および関連規格
 (東芝三菱電機産業システム(株) 森治義)

<Technology>
・スイッチング電源のノイズ対策の基本
 (岡山大学 梅谷和弘)
・車載向けオペアンプによるノイズ対策
 (ローム(株))
・モータ単体を題材にしたエミッション低減の具体策
 ((株)広島テクノプラザ 佐々木圭太、菅崎英雄)

<New&Now 規格・規制情報>
・CISPR 35が付則で規定している機能別性能判定基準(付則A~付則D)
 (電気通信大学産学官連携センター 雨宮不二雄)

<実践講座>
・電動化とEMC②
 EV、HV車に搭載される車載部品のEMC試験評価方法
 ((株)UL Japan 大水豊)

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