公衆低圧供給系統における低周波伝導妨害およびシグナリングの両立性レベル【IEC61000-2-2】（月刊EMC）

１．はじめに
　IEC61000-2-2（公衆低圧供給系統における低周波伝導妨害およびシグナリングの両立性レベル）は、低圧系統の高調波や電圧変動、三相電源の電圧不平衡等の電力品質環境・電磁両立性レベルを規定する規格である。
　欧州では、電力量計スマートメータの通信方式として低圧供給系統を用いたPLC（Power Line Communication: 電力線搬送通信）が広く利用されており、その周波数帯は主に30−100kHz 程度である。低圧機器から発生する妨害ノイズによってスマートメータの自動検針が阻害される障害が発生しており、両者が共存する電磁両立性レベルの設定が急務であった。
　従来のIEC61000-2-2 で規定された両立性レベルの上限周波数は、高調波次数50 次までであり、3kHz以上の周波数帯の両立性レベルは存在しなかった。IEC SC77A（電磁両立性・低周波現象）のスコープは本来9kHz までの周波数が対象であるが、供給系統の両立性レベルの設定作業を担当していることから、150kHz まで周波数帯が広げられ改訂作業が任された。
　IEC61000-2-2 の電磁両立性レベルの設定作業を担当しているSC77A WG8（電力供給系統に存在する外乱に関連した電磁環境の記述） では、2012 年から2−150kHz 周波数帯の両立性レベル設定の本格的作業を実施しており、同周波数領域のノイズ発生要因であるパワエレ機器メーカとスマートメータや公衆低圧供給系統を管理する配電会社の間で議論が紛糾し、長期化していたがようやくにレベル設定の合意に至った。
　本稿では、2−30kHz と30-150kHz で対象周波数帯を分けて発行されたIEC61000-2-2 の改訂内容について概説する。

２．2-30kHz 周波数領域の両立性レベル（IEC61000-2-2 Amendment 1）
　IEC61000-2-2 Ed.2 Amendment 1（以下Amd.1）では、2-9kHz および9-30kHz 周波数帯の非意図的なエミッションに起因する低圧供給系統の両立性レベルおよび150kHz までの故意のエミッションである主回路通信システムの両立性レベルが設定されている。Amd.1 は2016 年6 月10 日に発行された最初の文書案から各国のコメントを踏まえて、2017 年3 月31日に最終国際規格文書（77A/958/FDIS）が出され、Amd.1 は2017 年6 月発行された。
　Amd.1 が後述の30−150kHz 周波数帯を対象としたAmd.2 よりも約1 年前に発行されている理由は、2-30kHz 周波数帯は30−150kHz 周波数帯のスマートメータPLC 通信の周波数領域に直接影響がなく、早期の両立性レベル設定が可能であったことによる。 　2−9kHz 周波数帯の両立性レベルは% 単位で設定されており、2kHz 以下の高調波と同等である。

続きは『月刊EMC No.376』にて

【月刊EMC No.376 目次情報】

＜特集＞
◇IoTにおけるEMCへの対応と標準化の動き
・IoTにおける無線通信SUNとEMCへの対応
　（（国研）情報通信研究機構 児島史秀）
・車載受信機から学ぶIoTの自家障害への対応
　（（株）デンソー 中村克己）
・IoTで重要な低圧配電線内の両立性レベルに関するIEC動向
　（（一財）電力中央研究所 岡田有功）

＜新製品とEMC＞
・補聴器「リオネットシリーズ」
　（リオン（株））
・補聴器のEMC規格の概要
　（リオン（株） 藤坂洋一）

＜Technology＞
・5Gの超多数接続を低遅延で実現する「STABLE」と干渉抑圧・除去技術
　（（国研）情報通信研究機構 大堂雅之）
・車載部品評価におけるEMC試験のポイント
　（（株）アイピーエス東海 貝山光雄）
・電磁波の波源分布推定法の最新技術
　（東北大学 今野佳祐、陳強）

＜New&Now 規格・規制情報＞
・公衆低圧供給系統における低周波伝導妨害およびシグナリングの両立性レベル
　（中部電力（株） 中地芳紀）
・低圧電気設備―第4-44部：安全保護―妨害電圧及び電磁妨害に対する保護
　（音羽電機工業（株） 酒井志郎）
・台湾におけるEMC規制の現状概要解説
　（（一社）セーフティグローバル推進機構 梶屋俊幸）
・韓国KCマークとKCsマークの概要
　（SGS ジャパン（株） 軽石隆）

＜実践講座＞
・EMC測定・試験のポイント－1.今更、人に聞けないEMC用語解説
　基本・共通用語⑮
　ループアンテナの実際
　（（国研）情報通信研究機構 藤井勝巳）

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