電気溶接装置における電磁界の人体ばく露【IEC 62822-1】(月刊EMC)

2020.4.15 更新
電気溶接装置における電磁界の人体ばく露【IEC 62822-1】(月刊EMC)

 IEC62822 シリーズはIEC TC26(電気溶接)で審議されている。この規格は欧州でのEMF 指令の整合規格となることを目的に策定されており、このEMF 指令は労働者の電磁ばく露の防止を目的に発行されている。電磁界ばく露による人体影響は1979 年に米国で小児がんと居住環境における超低周波電磁界のばく露との関連性が指摘されて以来、世界各国で磁界ばく露の研究・評価が盛んに行われている。

 特に、より強い磁界における急性ばく露は、末梢神経及び筋肉への刺激作用、全身的熱ストレス及び局所過熱など即時的な健康影響を及ぼす事が明らかになっている。これに対して、1998 年4 月にICNIRP(国際非電離放射線防護委員会:International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)によって、WHO(世界保健機構:World Health Organization)公認の防護指針「磁界変化する電界、磁界及び電磁界によるばく露を制限するためのガイドライン」が制定され、さらに2010 年には低周波に特化した「磁界変化する電界、磁界及び電磁界によるばく露を制限するためのガイドライン(1Hz から300kHz)」が発行され、世界で広く採用されている。しかし、この指針を法令化する国は少なく、また、工場や発電所などの、低電圧・大電流を扱い、強い低周波磁界が発生するとされる職場環境でのばく露状況については一般生活環境ほど危険評価がなされていない。

 その中で、EU(欧州連合:European Union)は2004 年4 月、ICNIRP のガイドラインに準拠した「労働者の電磁界ばく露に関する指令」(EMF 指令)を発行し、労働者のばく露を最小限に抑えることを要求した。さらに2013 年には内容を改定した「物理的作用因子(電磁界)に起因するリスクへの労働者のばく露についての健康および安全の最低要求事項に関する」を発行しEU 加盟国は2016 年7 月までにこれを法制化し遵守することになっている。これらの動きは、磁界制限に関する製品規格の制定による電磁波防護の費用など、産業界にも影響を及ぼす事が予想される。

 今後溶接業界での磁界ばく露評価の動きは欧州だけでなく、欧州に溶接機を多く輸出している国に対して影響を与える。特に溶接作業環境においては、溶接に使用する電源の種類によって溶接電流波形が異なる。また、溶接電源筐体が強磁性体である鉄製であることが多いため、溶接電源から磁束が外部に出ることは考えにくい。

しかし、溶接ケーブルを含む職場環境の中でも特に複雑な磁界が発生しているとされるが、溶接作業者がばく露を受ける磁界の定量的な評価は難しく、ばく露低減化対策も容易ではないとされている。

続きは『月刊EMC No.382』にて


【月刊EMC No.382 目次情報】

<新製品とEMC>
・チルト機能付き電動ベッドフレーム「GR-01F KN-R」
 (フランスベッド(株))
・電気用品安全法技術基準解釈別表第八の概要解説
 ((一財)電気安全環境研究所(JET) 藤倉秀美)

<特集>
◇「基礎講座 EMC設計と シミュレーション」−電磁界シミュレーションの基礎とその応用−
・イントロダクション−EMC設計の基礎−
 (拓殖大学 名誉教授 澁谷昇)
・電磁界シミュレーションの基礎 Sonnetの使い方
 (群馬大学 菊地秀雄)

<Technology>
・パワエレ機器・電源回路における伝導ノイズシミュレーション技術
 (パナソニック(株) 嶺岸瞳)
・簡易等価回路モデルを活用した車載用インバータの伝導ノイズ解析と対策設計
 (三菱電機(株) 片桐高大)

<New&Now 規格・規制情報>
・CISPR 35が付則で規定している機能別性能判定基準(付則G)
 (電気通信大学産学官連携センター(前電波利用環境委員会I 作業班主任) 雨宮不二雄)
・電気溶接装置における電磁界の人体ばく露
 (埼玉大学 山根敏)

<Information>
・四半世紀/25年間のEMC環境フォーラムの開催記念表彰
 設計対策技術部門、規制規格部門、フォーラム最多受講者の3部門表彰
 (EMC 環境フォーラム運営委員会)

<実践講座>
・熱設計技術【最終回】
 ペルチェ素子の応用
 ー新人社員や初心者のための機器の熱設計対策に関する教育的な講義
 (富山県立大学 石塚勝)
・EMC測定・試験のポイント−2.EMC測定・試験は何故必要か
 規制の法的枠組みと動向⑫
 米国におけるEMC規制
 ((株)e・オータマ 田路明)
・電動化とEMC③
 電気自動車における給電技術とEMC
 接触式充電からワイヤレス給電、マイクロ波給電まで−上−
 ((元)京都大学 生存圏研究所 横井 行雄)

詳細はこちら


Copyright(C) Kagakujyoho shuppan Co., Ltd. All rights reserved.
※記事の無断転用を禁じます。