高調波電流発生限度値の規格解説【JIS C 61000-3-2 2019】(月刊EMC)

2020.7.3 更新
高調波電流発生限度値の規格解説【JIS C 61000-3-2 2019】(月刊EMC)

はじめに
 JIS C 61000-3-2:2019 が2019 年3 月20 日発行されました。JIS C 61000-3-2 は2003 年に制定され2005年、2011 年の改正を経て今回の改正になります。IEC61000-3-2 に基づいた規格ですが欧州と日本では電源電圧が異なるため日本の電源に合せた規格がJISC 61000-3-2 です。本書では規格が制定される理由から、IEC61000-3-2 との違いがある箇所を補足して解説します。また、規格の流れ図に沿って解説します。

1.高調波電流による周辺機器や系統への影響について
 高調波電流とは、何か。それは、機器の消費電流波形のひずみ成分のことです。白熱電球の消費電流は、綺麗な正弦波です。周波数解析をしても50Hzや60Hz の基本波しかありません。これに対して電子機器の消費電流は、電源電圧のピークでパルス状に流れます。半導体を駆使する電子機器は、機器内部は直流で動作します。交流である商用電源からは、ダイオード整流などによって平滑化します。ピーク付近にだけ電流が流れ、ゼロクロス付近では電流が流れません。このように電流が流れる部分と流れない部分が存在するため、電流波形は正弦波状にならない波形となります。
 この波形を周波数軸で見ると、基本波のほかに基本波の2 倍、3 倍・・・・・の周波数の成分があります。これが高調波電流です。そして、高調波の周波数成分を区別するときは、2 次高調波とか奇数次高調波というように呼びます。
 このように電子機器の増加によるために高調波電流が多く発生することになります。
 ではなぜ高調波電流があるといけないのでしょうか?高調波が及ぼす悪影響としては以下の症状が報告されています。
・通信機器の雑音・映像の乱れ
・コンデンサやリアクトルの振動・うなり・異常加熱
・電力ヒューズの過熱溶断
・電力量計の計量誤差発生・継電器の誤動作
・皮相電力の増大による電力設備の大型化
コンデンサは周波数が高くなるとインピーダンスが低下します。インピーダンスが低下することはすなわち電流が流れやすくなることと同等のことが言えます。
 前述したようにダイオード整流などの機器にはコンデンサが含まれていますので同じ系統に接続された機器への影響は大きくなりそうです。
 高調波電流を発生する機器は増加の一途。障害がますます拡大することが予測されました。そのため、高調波電流を発生する機器に対する国際的な規制が始まりました。その国際規格がIEC61000-3-2 です。IEC は、規格を作成した国際電気標準会議の頭文字です。
 これらの影響が社会全体に様々な影響を及ぼすことを考慮して高調波電流の規制を取り決めることとして、日本ではJIS C 61000-3-2 の規格が制定されました。

続きは『月刊EMC No.387』にて


【月刊EMC No.387 目次情報】

<新製品とEMC>
・Wi-Fi ホームルータ「Aterm WX6000HP」、「Aterm WX3000HP」
 (NECプラットフォームズ(株))
・CISPR 32クラスB許容値について
 (NTT ネットワーク基盤技術研究所 秋山佳春)
・CISPR 35の適用範囲、イミュニティ要求事項及び一般性能判定基準
 (電気通信大学産学官連携センター(前電波利用環境委員会I 作業班主任 雨宮不二雄)

<特集>
◇IoTとEMC
・IoT時代のシステムとEMC
 ―電気学会/調査専門委員会の活動中間報告―
 (愛媛大学 都築伸二)
・パターンレイアウトを利用したプリント配線板のEMC設計
 ―EBG(Electromagnetic Bandgap)構造の無線機器への応用―
 ((株)トーキンEMC エンジニアリング 原田高志)
・日立におけるIoTの取り組みとEMC課題
 ((株)日立製作所 松島清人)

<New&Now 規格・規制情報>
・「JIS C 61000-3-2 2019」の解説
 高調波電流発生限度値の規格解説
 ((株)エヌエフ回路設計ブロック 佐藤公治)
・電気用品安全法技術基準の解釈別表第十第2章
 高周波利用機器の電波雑音に関する規制
 ((一財)電気安全環境研究所 山下洋治)

<実践講座>
・ドローン=飛翔体とEMC①
 ドローンの第三者上空飛行のための電波利用とEMC
 ((一財)総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM) 秋本修、
  (国研)情報通信研究機構(NICT)三浦龍、小野文枝 )
・回路網を用いた広帯域PLCの信号伝送特性と漏洩電磁界特性の解析⑤
 屋内配電線と通信線の結合特性
 (九州工業大学 桑原伸夫)
・EMC測定・試験のポイント-1.今更、人に聞けないEMC用語解説
 基本・共通用語⑯
 電磁環境(electromagnetic environment)
 (東京都市大学 徳田正満)
・熱設計技術①
 IoTシステムの熱課題に対処するための伝熱工学とエクセル解析の基礎
 (元熊本大学大学院 富村寿夫)

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