1. 磁気シールドとは

電磁波は磁界、放送通信用の電波や赤外線や光、X線まで含み、そのうち電波は電波法で300Hz~3THzと決められている。しかし、実際に使用されるのは9kHzから衛星通信用の200GHz程度までである。

電磁波の波長は光の速度(3×108m/s)を周波数で割ることにより求められ、300Hzでは1,000km、3THzでは0.1mmになり、交流電源で使用される50Hzの場合は6,000kmとなる。磁界または電界が単独で存在する領域は近傍界と言われ、波長λを用いると、λ/2π以下の領域で示される。

したがって、交流電源の場合、磁界及び電界が単独で存在する領域は、およそ1,000km程度にまで及ぶことになる。遠方界では磁界と電界が互いに直交して進行する状態になっているため、磁界または電界のどちらかを減衰させれば、トータルでの電磁波をシールドすることができるが、近傍界では磁界と電界がそれぞれ個別で複雑に存在しているため、磁界及び電界はそれぞれ個別にシールド対策を施す必要が出てくる。

変換器、センサー、検出器、試験用測定器などの高感度な装置は、特に磁気シールドを必要としている。

3MHz以上の周波数の電磁波は、通常、薄い層の導電性材料を用いてシールドすることができる。

しかし、単純な導電層では、電子機器の誤動作を引き起こす3MHz以下の低周波の磁界を通過させてしまう。この様なスイッチング電源、モーター、トランス等から発生する低周波の磁界は、一般的には、シールドするのは非常に難しい。

通常は、高い透磁率の強磁性を有する合金を用いることで対応することになる。高い透磁率のシールド材料は、磁界がシールド材料を通過する時に、磁界の進行方向を変えて、バイパスさせてやることにより、保護したい対象物から磁界を回避させ、磁界が原因で不具合が生じる対象物を保護することになる。

また、同様のやり方で、低周波の磁界の発生源を高い透磁率の材料で囲むことによって、外部への磁界の放出を防ぐことができる。

磁気シールド塗料
図)製品例「磁気シールド塗料」

2. 磁気シールドの使い方

現在の一般的な対処法は、高い透磁率の磁性シートを用いることが主流になっているが、その方法が有効なのは、単純な形状をシールドする場合のみである。

そこで、複雑な形状への対処法として、高い実部の透磁率を有する“塗料”を、磁気シールドを施したい表面に塗装することが挙げられる。

“塗料”の大きな利点は、作業工程と設計の任意性にあると考えられ、実際の作業現場において工程の段取りを臨機応変に変更することや、塗装を必要な個所にのみできることで、筐体等の不必要な重量の増加を抑えることができ、軽量化の特徴を維持しつつ許容できる磁気シールド性能を実現することができる。

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3. 磁気シールドを使う場所

『筐体等の金属から樹脂への軽量化』に伴うシールド対策に適する特徴がある。

これまで、大型バッテリーケースには電磁鋼板などが用いられてきた。しかし、電気自動車やハイブリッド車の車両全体の軽量化のために、樹脂もしくは薄いアルミ板が使用される可能性が出てきている。

しかし、これらを材料として用いた筐体では、低周波の磁界ノイズである「ラジオノイズ」をシールドすることが困難である。

そこで、“塗料”を使用することにより、「軽量化」と「ラジオノイズ低減」の両立を実現できる可能性がある。

用途としては、電気自動車、ハイブリッド車のほかに、モーター周辺、データセンター、電波暗室等の内壁及び外壁、ワイヤレス給電の電力伝送効率の向上(渦電流損の低減効果)などが挙げられる。

“塗料”の特徴でもある、形状や膜厚の高い任意性を活用することにより、これまで問題とされていた複雑形状や細部に至るまでのわずかな隙間からの電磁波の漏洩を抑制することができ、これまで使用されてきた様々なシールド技術と組み合わせることにより、総合的にシールド効果を高めることができると期待している。

(著)藤倉化成株式会社

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