1.スペクトラムアナライザとは/シグナルアナライザとは

スペクトラムアナライザとは、シグナルアナライザとは何でしょうか。これらは大変便利な測定器ですが、どのような物でどのように使用するのでしょうか?
業務、研究開発などのシーンでさまざまな物理量を測定するに際して、対象となる現象をセンスして電気信号に変換することができれば、電子回路技術を駆使することができ測定値表示・記録が容易となります。これを実現した機材を電子計測器と称しますがスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)は電子計測器の中でもポピュラーな汎用機材の一種です。

本稿ではスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)という機材に初めてこれから接するという初心者の方のために入門的な内容を書いていきますが、スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)を使う設定条件が多いため苦手意識のある技術者もいらっしゃるようですので、そのような方にとっても基礎の基礎を理解いただけるような内容にしたいと思います。

スペクトラムは対象とする電磁界現象のレベル対周波数の分布を示すいわばグラフです。スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)では周波数分布を解析して一覧を示すことができますし特定周波数のレベルのスポット測定ができます。
通信・放送の電波の場合であれば運用に供する電波のレベルと周波数偏差、さらに探索して不要輻射のレベルなどのチェックをして、無線設備規則に遵守できているかの監視を行うことができます。

図・スペクトラム表示画面


2.スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)などの電子計測器の簡単な分類

スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)などの電子計測器を測定値表示の仕方によって分類してみましょう。

■1次元

電圧計、電流計、抵抗計など【D M Mという一体型が主流です】

■2次元

オシロスコープ【縦軸はレベル、横軸は時間】】
スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)【縦軸はレベル、横軸は周波数】

■3次元

最近のスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)【レベル、周波数、時間の3軸】

スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)を適用ジャンル別に分類してみましょう。適用ジャンルはおおざっぱに分けると

■音響
(低周波)

音響のジャンルは音響機器の特性解析や聴取分析、騒音、振動の分析が主眼で、低周波で信号処理が楽なためFFTという信号処理アルゴリズムを駆使したスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)が活躍しています。

■高周波

高周波のジャンルは、無線通信機器の品質評価や電子機器の与干渉被干渉の電磁界測定などのニーズにマッチする対応が主体になります。本稿では主にこちらについて解説を進めます。

スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)を内部の信号処理方式別に分類してみましょう。

■掃引型

スーパーヘテロダインという技法を用いて一定の中間周波数(IFと称します)に変換します。中間周波数に落とし込むことにより可変幅の帯域フィルタなどの信号処理が容易に実現できます。

■FFT方式

低周波用途では入力信号をA/D変換して時系列デジタル・データとし、FFT処理を施して周波数領域のスペクトラム・データを得ています。高周波用途では掃引型構成の中間周波数の信号にA/D変換・FFT処理を施して同様にスペクトラム・データを得ます。 FFT方式は掃引型と比較してリアルタイム性に長けているので、時間軸上で激しくスペクトラムが変化する信号のキャプチャ・分析に適しています。

3.スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)の設定3要素+2要素

スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)で測定対象の電波・電磁波をキャプチャするためには以下の基本設定をします。まずは3要素から説明します。

①レベル設定
入力する信号レベルの最大値を推定して“REFERENCE LEVEL” を設定する、すなわちスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)の表示画面の「天井」のレベルを決めます。「レベル」の単位については後述します。
②センター周波数設定
測定画面中央の周波数“CENTER FREQ”を指定する。
③スパン設定
観測する周波数の幅”SPAN”を指定する。

コラム

観測対象とする信号の性質によっては、センター周波数とスパンの指定によらず、スタート周波数(スペクトラム表示の左端)とストップ周波数(スペクトラム表示の右端を指定する方法をとることもできます。

センター周波数=(スタート周波数+ストップ周波数)÷2
スパン=ストップ周波数-スタート周波数

と関係づけられます。

図・スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)の基本設定

3要素の設定を行って観測対象とする信号をRF入力端子に繋いでRUNをかけると、「だいたい」の期待するスペクトラム像が得られます。ここからさらに正確な測定値を得るためには2要素の設定を加えます。

④分解能帯域幅(RBW)
IFの帯域フィルタの幅がスパンに対して広めの場合は周波数が近接する信号を分離した形でスペクトラム表示に反映することができていない場合があります。観測対象信号の性質によってRBWを最適に調整することにより近接信号が分離されて正確なレベル測定が可能となります。RBWは通常はスパンの設定に連動して自動設定されるようになっていますが近接信号の分離表示を目的とする場合は手動設定にします。
図・RBWが広め
図・RBW最適
⑤ビデオ帯域幅
IFの通過信号は「検波」を行って表示する信号としますが、検波の出力にローパス・フィルタが設けられています。(デジタル信号処理で実現されています。)観測信号に振幅が大きめのランダムノイズが含まれる場合VBWの帯域を狭くすることによりスムージング効果が得られ、ノイズに隠れがちなスペクトラムを浮き上がらせることができます。
図・VBWが広め
図・VBW最適


4.「レベル」の単位(高周波用途)

レベルの単位は設定によって切り替えることができます。観測対象によって使い分けます。

dBm
測定値の1mWに対する電力の比をデシベルで表記します。電力[dBm]=10×Log10(1mWに対する電力比)であらわされます。電波の測定などで用いられます。真値1Wの信号を入力すると+30dBmと読み取られます。
dBµV
測定値の1µVに対する電圧の比をデシベルで表記します。電圧[dBµV]=20×Log10(1µVに対する電圧比)であらわされます。EMI測定などで用いられます。
dBµV/m
アンテナをスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)に接続して電界強度を測定する場合に用います。電界強度測定ではアンテナの周波数特性(アンテナ・ファクタ)を加味する必要があり、高機能型のスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)ではアンテナ・ファクタを記憶させて補正された測定値が得られるようになっています。

5.スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)の検波と表示

IFの出力信号を表示するに際して観測目的にマッチするように検波モードの選択ができます。大昔のスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)と異なり昨今の機種はスペクトラム表示がデジタル化されています。横軸の周波数を表現する点(表示上ではピクセル)の数には限りがあるためIF出力のデジタル・データに対して等間隔で刻んだ区間の代表値を求めるいわば間引きを行います。スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)の機種によってモードの呼び方に違いがありますがおおむね以下のようなモードが選択できます。

Normal

:区間の最大値と最小値を代表値として表示する

Sample

:区間の端の瞬時値を採用して表示する

Pos Peak

:区間の最大値を代表値として表示する

Neg Peak

:区間の最小値を代表値として表示する

Average

:区間内データの平均値を代表値として表示する

コラム

EMC/EMI測定分野では「準尖頭値」検波を用いることが古くから推奨されています。QP検波と称しています。

最近のスペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)では回路ではなくデジタル信号処理でQP検波を実現しています。QP検波はオプション機能扱いとなっていることが多いです。



6.スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)の精度・確度とトレーサビリティ

スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)に限らず電子計測器ではスペックとして精度・確度が規定されていて、またその精度・確度の維持には定期的なトレーサブル校正とその証明書獲得を実施する必要があります。測定値がデータシート化され公的に発行・申請などに供するケースでは必須です。

7.スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)の「アプリ」の利用

スペクトラムアナライザ(シグナルアナライザ)は汎用計測器ですが高機能クラスの機種ではソフトウェアで実現する測定機能拡張オプションが豊富に用意されています。スマートフォンで例えるとストアから購入する便利アプリといったところでしょうか。必要とされる詳細な設定パラメータをプリセットで内蔵しているので特定の測定用途にはすぐフィットします。以下にオプションの例を示します。

<測定法に準拠させるオプション>

  • EMI Measurement Application
  • Phase Noise Measurement Application
  • Noise Figure Measurement Application

<無線通信の方式・規格に特化したオプション>

  • WLAN 802.11a/b/g/j/p/n/af/ah Measurement Application
  • LTE and LTE-Advanced FDD Measurement Application
  • LTE and LTE-Advanced TDD Measurement Application
  • NB-IoT and eMTC FDD Measurement Application
  • Bluetooth® Measurement Application
  • Short Range Communications and IoT Measurement Application
  • Vector Modulation Analysis Custom OFDM Application

株式会社メビウス