ここではグラウンド(グランド)の手法、方法をはじめ、アースとグラウンド(グランド)の違い、グランディングによるノイズ対策の原理などを掲載します。

1.グラウンド(グランド)の概要

グラウンディングとは接地を行うことである。すなわち、ノイズ低減対策・EMC対策として、グラウンド(グランド)周りの対策を行う事を示す。
グラウンド(グランド)の役割には大きく分けて2つある。

1つはセイフティグラウンドと呼ばれている安全グラウンドで、もう1つは電気的なグラウンド(グランド)である。ここでは電気的なグラウンド(グランド)に絞って記載する。まずグラウンド(グランド)には電位の基準面としての働きがある。これについては基準グラウンドという用語が用いられている。

もう1つ、グラウンド(グランド)には電流の帰路としての役割がある。電流が電源線、あるいは信号線などいわゆるホットな線を流れれば、必ず帰りの経路が必要になる。この帰路がグラウンド(グランド)なのである。

2.グラウンド(グランド)の分類

① 信号グラウンド(シグナルグラウンド)
信号線のグラウンド(グランド)、すなわち電流が流れる帰路をシグナルグラウンドと呼んでいる。
② 筐体グラウンド(フレームグラウンド)
フレームグラウンドは、電流の流れる帰路を確保するというよりは、むしろ系全体を基準のグラウンド(グランド)に接地する機能の方が強い。
③ デジタルグラウンド
デジタル回路系のグラウンド(グランド)である。
一般にデジタル回路は電流や電圧のスイッチングにより電源・グラウンド端子間に大きなノイズが発生する。
従って、微小信号を扱うことが多いアナログ回路系のグラウンド(グランド)とは区別して考える。
ノイズ対策を行う場合、デジタル回路のグラウンド(グランド)の取り方は大きな問題の一つである。
④ アナロググラウンド
アナログ回路系のグラウンド(グランド)である。
デジタルとアナログの混在する回路ではグラウンド(グランド)は一般に分離すべきであると言われており、これらのグラウンド(グランド)は例えば基板のソケットの部分などで一点接続される。
⑤ パワーグラウンド
大電流の流れる機器やモータなどの駆動回路のグラウンド(グランド)を特に、パワーグラウンドと呼んでいる。
これには大きなノイズ電圧が発生するので要注意である。


3.グランドノイズ対策-ノイズに強いグラウンド(グランド)について-

グラウンド(グランド)は回路や基板において基準となる電位の事を指しています。ノイズ対策にはグラウンド(グランド)の安定は必要不可欠です。ここで言うグラウンド(グランド)の安定とは、グラウンド(グランド)の電位が安定している事であり、フレームグラウンド(FG)との電位差が0Vに近い事を指しています。基板上のデジタルグラウンド(DGND)やアナロググランド(AGND)と、フレームグラウンドとの間の電位差を出来る限り0Vに抑える事が最も重要となります。ノイズ電流はグラウンド(グランド)を介して発生源に戻ってきます。グラウンド(グランド)が安定していないと、その経路自体が電流の流れを妨げてしまいます。つまり経路のインピーダンスが上がってしまう為に、ノイズの悪化を招く事になります。これをグランドノイズと呼びます。グラウンド(グランド)の安定は、全ての対策のベースになると言えますし、金属筐体についても同じ事が言えます。この後、「グラウンド(グランド)による ノイズ対策」をテーマにご紹介していきます。

4.筐体グラウンドについて

グラウンド(グランド)によるノイズ対策を述べるために、筐体開口部の影響についてご紹介します。板金上のスリットで電流の流れが妨げられると、導体の交流抵抗(インピーダンス)が上昇します。図1は板金にスリットが空いている様子を表しています。左側の筐体はスリットが空いていないため妨げるものがありませんが、中央の筐体は小さなスリットが複数並んでおり、若干ですが電流の流れが妨げられます。右側の筐体は大きなスリットが空いている為、電流の流れが大きく迂回する事から、流れが大きく妨げられています。下段のパラメータで示す通り、スリットの形状によってインピーダンスは上昇し、併せてノイズレベルが大きくなることが分かります。筐体に開口部の設置する際には注意が必要と言えます。

図.1

次に、インピーダンスを意識し筐体グラウンドの開口部を設置したとします。その際には、開口部における最大長に配慮する必要があります。図2はスリットの大きさによる共振の長さを示しています。左側の図は小さい開口部が並んでいますが、共振長が非常に短くスリットアンテナとして働き難いと言えます。中央の図や右側の図は、開口部の対角長や最大長が大きいために共振長が長く、スリットアンテナとして働き易くなります。スリットの大きさによってノイズレベルが大きくなるため、開口部の大きさには注意を払う必要があります。

図.2


5.カップリング対策

ケーブルに発生するカップリング現象に対した「グラウンド(グランド)によるノイズ対策」をご紹介します。例えば、図3のようにケーブルが基板に近づくと、ケーブルと信号パターンの間に浮遊容量が生まれてしまい、矢印のようにノイズが流れ込んでしまうことがあります。この現象は、導体同士の距離が近い程に結合しやすくなる特徴があり、カップリング現象と呼ばれます。カップリングが発生したケーブルは、流れ込んだノイズを拡散させてしまう恐れがあります。

図.3

ケーブルは基板のパターンから距離を取る事が先決ですが、他のパターンと結合しないように図4のようにシャーシなどの筐体グラウンドに固定します。すると、基板とのカップリング現象は消滅し、結合がシャーシ側に移動します。この時、シャーシが安定したグラウンド(グランド)である程、その効果は顕著に現れますので、グラウンド(グランド)を利用したケーブルの固定は重要である事が分かります。

図.4

6.リターンパスとグラウンド(グランド)強化の関係

図5のTxとRxから成る回路は、ノイズ電流の流れを矢印で示し、リターンパスの様子を表しています。このリターンパスの経路が大きいほど、ノイズエネルギーは大きくなり、遠くの機器にまで影響を及ぼします。Txと基準グラウンドの電位差が大きいことがリターンパスを大きくしてしまう原因となります。コネクタの様子はイラストで示した通りです。

図.5

しかし、図6のように電位差を小さくすればリターン経路を小さくすることができます。電位差を小さくできればリターンパスも小さくなり、ノイズエネルギーも小さくなる事に繋がります。リターン経路を小さくするには、イラストで示す通りTxのコネクタ周りでグラウンド(グランド)強化を施すことが重要となります。強化には、コネクタを構造的にグラウンド(グランド)強化する方法と、基板上でグラウンド(グランド)強化する方法、の2種類があります。いずれも安定したFGへの接続強化が目的となります。

図.6

7.シールドケーブルの接地法について

シールドケーブルグラウンドの取り方は、2種類の方法があります。優れた電磁誘導の防止効果を上げるためには、図7のようにケーブルのシールドを1点でグラウンド(グランド)に接地する1点接地法が望ましいと言われています。この時ですが、芯線を流れる往路と、シールド表面を流れる復路の電流(Is)が、“方向は反対”で“大きさが等しい”、という条件が揃う事が必要となります。この条件を揃えるには安定したきグラウンド(グランド)への接続強化(グラウンド強化)が必要です。

図.7

また、図8のようにケーブルシールドの両端をグラウンド(グランド)に接続する2点接地法を用いる場合もあります。芯線を流れて反対側へ達した電流Isはシールド表面を流れるIxと、グラウンド(グランド)を伝わって戻るIyの二手に分かれます。この時、IxとIsの関係がイコールになれば効果を発揮しますが、シールド2箇所を安定したグラウンド(グランド)へ接続強化(グラウンド強化)する事が必要となります。ただし、どちらかのグラウンド(グランド)強化が不十分な場合、そのバランスが崩れることが多く、ノイズが発生することもありますので注意が必要です。

図.8


8.基板上の伝送線路について

高速デジタル信号は非常に高い周波数を含み、波形歪みを生じやすい特徴があるため、ノイズを発生する原因となります。つまり適切に構成され正しく終端された伝送線路を用いることで、 波形歪みが少ない伝送が可能となりノイズに強い回路となります。伝送線路とは、電磁波をそれに沿って伝搬させるための機構の事を指します。

図9で伝送線路をご紹介します。信号にガードパターンが無いマイクロ・ストリップ線路が最もノイズに弱い伝送線路ですが、信号を内層に配線し上下のグラウンド(グランド)で挟むストリップ経路が最もノイズに強い伝送線路となります。シールドグラウンドと常に同じ距離を保つ同軸経路に最も近いと言えます。

図.9

伝送線路によって波形に与える影響は、図10の特性インピーダンスの違いに関係しています。各伝送線路に於ける波形の違いを、例をもって示しています。伝送線路の設計次第によってインピーダンスが下がっていくため、波形整形にも影響します。ノイズ発生の原因となるオーバーシュート(とアンダーシュート)が大きいマイクロ・ストリップ線路に対し、ストリップ線路では大幅にオーバーシュートが小さくなっているのが分かります。特性インピーダンスの小さい線路に設計する事は非常に重要と言えます。

図.10

9.基板グラウンドは電源層よりも広い方が良い

図11は一般的な基板設計の例ですが、電源層(Power)はグラウンド層(GND)と同じ基板端まで設計されています。この場合、電源層とグラウンド層間の基板端でRF放射が発生し易いという特徴があり、ノイズ発生の原因となります。そこで、図12のように、電源層を基板の端から下げて小さくしてみると、グラウンド層に対してRF電流が結合するリターン経路が発生するため、基板の端で発生していたRF放射が発生しにくくなるという利点があります。

図.11
図.12

この時、グラウンド(グランド)の面積をどれくらい縮小すれば良いか判断するために、図13で示す「20H法則」を参考にすることができます。図の左側はデジタル系、右はアナログ系を例として挙げていますが、いずれも理論は同じです。20H法則は、Power層の端面を、グラウンド(グランド)のサイズより縮小して設計する手法です。その時に縮小する寸法は、Power層とグラウンド層の間の誘電体厚さ (H)を20倍したサイズになります。グラウンド(グランド) のサイズが上回る事で、基板端からの磁界の漏洩を抑制することができます。

図.13

10.グラウンド(グランド)のパターンは太く短く配線する

グラウンド(グランド)のパターン配線は、太く且つ短く配線するのが望ましいです。図14のように、パターンが太く短い程、インピーダンスが下がり、ノイズ電流が流れやすくなりノイズ発生を抑制することができます。

図.14

またグラウンド(グランド)パターンは、太く且つ短く配線しながら、パターンは一本だけでなく数本で繋ぐことが望ましいと言えます。図15のように、接続する本数が多い程、インピーダンスが更に下がるため、更にノイズ電流が流れやすくなりノイズを抑制することができます。

図.15

11.ICの下には2種類のグラウンド(グランド)を入れない

図16はICの下にグラウンド(グランド)を配線した様子です。左側の様に、ICの下にDGND(デジタルグラウンド)とAGND(アナロググラウンド)が配線された図面を見かける事があります。ICの直下で異なるグラウンド(グランド)を混在配線させると、電位差を発生するため、ICから発するノイズの悪化を招く可能性があります。ICがアナログ系の部品であればAGND、デジタル系の部品であればDGND(若しくはFG)、というように統一配線とする事が望ましいです。また、ICの下では、なるべく信号の配線を避けて、グラウンド(グランド)の面積を優先して下さい。

図.16

12.鋭角のグラウンドパターンはアンテナになる

基板上に適切にベタグラウンドを配線することはとても重要です。その中で注意すべき点は、鋭角なグラウンド(グランド)パターンは避けるという事です。図17のように鋭角なグラウンド(グランド)パターンは、ノイズのアンテナになり易くなります。それを避ける為には、図18のように鋭角の先端にViaを設けて内層グラウンド(グランド)にリターンパス経路を作る、若しくは鋭角は避けてグラウンド(グランド)端面の角は丸みを帯びたデザインにする、という事でアンテナになることを防ぐ事ができます。(図17)

図.17
図.18

「グラウンド(グランド)によるノイズ対策」においては、装置全体を総合的な視点で解析し、検討をしていくことが重要です。失敗を繰り返さないためには、皆様が携わった過去の装置の結果から、ノイズに強かったグラウンド(グランド)設計の実例を蓄積することが最も重要です。いたずらに対策部材が増えてしまわないように、過去の情報を社内で共有し、その情報をいかに活用するかが一番の課題になります。今回は基礎的な実例を基にご紹介しましたが、何故、安定したグラウンド(グランド)が重要なのか十分に理解することが、次のステップに繋がることを念頭に置いて下さい。

テュフズードジャパン株式会社

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