ここではDCやACの電源ラインにおけるノイズ除去や対策、測定に関して掲載します。
1.なぜ電源ラインのEMC(ノイズ)対策が必要なのか?
ノイズを発生させる主な機器としてスイッチング電源やインバータ装置などが挙げられる。近年、機器の小型・省エネ・高性能化の流れの中、日本国内はもとより世界各国でエアコンや洗濯機など様々な機器でインバータ化が加速している。それに伴いノイズの発生による機器自身や外部機器への誤動作等のトラブルも増え、ノイズ対策が以前にも増して重要となっている。
EMCに関する国際規格は、IEC規格並びCISPR規格がベースとして存在しており、外部機器の動作に影響を与えない事(エミッション(EMI))と、外部からのノイズに対し影響を受けない事(
イミュニティ(EMS))が機器に求められている。(図.1)
広義でのノイズには、雷サージ等の機器を破壊・破損に至らす高レベルのノイズも含まれるが、本稿では機器自身や外部機器へ誤動作をもたらすレベルの狭義でのノイズに絞り、次項以降でノイズ発生の仕組みや代表的な対策部品・方法について紹介していく。
2.電源ラインのノイズ発生の仕組み・伝搬
一般的なインバータ装置を例に説明する。
インバータ装置では50/60HzでのAC入力に対し整流・平滑回路でDCに変換され、その後インバータ回路で任意の周波数に変換されたAC(PWM)が出力される。
インバータ内部の半導体スイッチにて数k~数十kHzの高速でON/OFFを繰り返す事でAC(PWM)に変換されるが、その際に高周波のスイッチングノイズが発生し外部へ伝搬される。(図.2)
また、ノイズの伝搬は
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①伝導ノイズ:電線を介して外部に伝搬するノイズ
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②輻射(放射)ノイズ:入出力線がアンテナとなり外部に伝搬するノイズ
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③誘導ノイズ:ノイズ電流が流れる電線と周辺機器の電線との電磁誘導で外部に伝搬するノイズ
の3種類に分類される(図.3)
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3.代表的なノイズ対策部品と使用方法
伝導ノイズに対する一般的な対策方法について説明する。
受動部品の「コンデンサ(キャパシタ)」「インダクタ(コイル)」は、交流での抵抗値を示すインピーダンスが周波数によって変化する特性を有し、この特性を用いて伝導ノイズ対策が行われる。(図.4)
「コンデンサ」は主に低い周波数帯のノイズ対策に、「インダクタ」は主に高い周波数帯のノイズ対策に有効であり、それらの複合品である「ノイズフィルタ(LCフィルタ)」が一般的に用いられる。また、対策を求められるノイズの周波数帯域によって「ローパスフィルタ回路」「ハイパスフィルタ回路」などを使い分けながら対策を行う。
図.5は「ローパスフィルタ回路」の概略である。発生したノイズが商用周波数に重畳され外部へ伝搬されるが、「コンデンサ」の高周波帯での低いインピーダンス、及び「インダクタ」の高いインピーダンスの相反する特性を利用する事で高い周波数成分のノイズのみを除去し、低周波数の50/60Hz商用電圧は逆の特性を利用しそのまま通過させる回路構成である。
対策は個々の「コンデンサ」「インダクタ」を基板上に実装、もしくは複合品である「ノイズフィルタ」を装置に取り付けて行うが、入出力線を束ねる事やアース線が細く・長い場合はノイズ減衰効果が低減してしまう為、取付け方法には注意が必要である。(図.6)
4.製品写真
(著)岡谷電機産業株式会社
5.電源ライン(DC・AC)のノイズ対策概要
DC電源用EMIフィルタでは、信号用EMIフィルタのように急峻な周波数減衰特性は必要とされてないが、低周波からノイズを除去する必要があるので、L、C、の定数が大きいことが要求される。また、DC電源では、電源電圧が比較的低いことが多く、このため必要な電力を得るためには、大電流に対応する必要がある。
一般にフィルタの素子として使用されるL、Cの特性は、大きな定数を得ようとすると高周波での特性が悪くなる。これは大きな定数の素子は形状的に大型となり、高周波特性を劣化させる残留インダクタンスや浮遊容量が発生しやすくするためである。
輻射ノイズ対策用のDC電源用EMIフィルタとしては、低周波から効果を得るために大きなインダクタンス、静電容量を持ち、しかも輻射ノイズが問題となる高周波で有効な、広帯域で特性の良いフィルタであることが求められる。
6.DC電源ライン
DC電源ラインの輻射ノイズ対策に使用されるEMI除去フィルタを紹介する。フィルタが使用される実装方法、ノイズのモードによっていくつか種類がある。
- ① 広帯域に有効なブロックタイプEMIフィルタ
- 1MHz~1GHzの広帯域で大きな効果がある。電流容量も10Aと大きく、大きなノイズ除去が必要な回路の対策に使用される。
- ③ DC電源ライン用コモンモードチョークコイル
- 通常のL、Cを組み合わせたローパスフィルタでは、効果の少ないコモンモードノイズに対して効果がある。安定したグランドのとれない回路の対策に向いている。
- ④ DC電源ライン用チップEMIフィルタ
- SMT対応基板のノイズ対策に使用される。チップ部品でありながら、大電流に対応できる。
DC電源のノイズを広帯域で除去できるように、大容量の積層セラミックコンデンサと、高周波特性の良い貫通コンデンサを使用し、インダクタンス素子としてフェライトビーズを組み合わせたL、C複合のノイズフィルタである。1MHz~1GHzの広帯域で40dB以上の大きな効果があり、FCCで規制されるノイズの帯域はほとんどカバーできる。また電流容量も10Aと大きく、大型のセットにも使用できる。
樹脂ケースの中に素子をコンパクトに組み込んであるため、単体の部品をプリント基板上で組み合わせるよりも小型で、高周波特性が良い。基本的にはノイズ成分をグランドにバイパスするバイパスコンデンサであるが、ノイズの伝導モード、周辺の回路の状況に幅広く対応できるよう、インダクタを組込み、回路的な工夫がされている。
7.AC電源ライン
AC電源ラインは外部のノイズが電子機器へ侵入したり、電子機器の内部で発生したノイズが流出する経路となる。またノイズを放射したり受診してしまうアンテナとしても働くため、輻射ノイズが問題になることもある。
一方電源回路は、小型・軽量化に伴いスイッチング方式が大勢を占めるようになり、さらに共振型に代表されるような高周波化によって小型・軽量化が推し進められている。このため、AC電源ライン用EMIフィルタには、小型で高性能のものがますます必要になってきている。
AC電源ラインのノイズには、ライン間に生じるノーマルモードノイズとグランドに対して両ラインに生じるコモンモードノイズがある。ノーマルモードノイズは低域で、コモンモードノイズは高域で問題になる傾向がある。AC電源ラインでは、この2種類のノイズを除去できる回路網が必要である。
通常AC電源ライン用EMIフィルタの回路は、3種類の素子から構成されるのが一般的である。各素子はノイズのモードと周波数に応じて、コモンモードチョークコイルが低域のコモンモードノイズの除去、アクロスザラインコンデンサが低域のノーマルモードノイズの除去、ラインバイパスコンデンサが高域のコモンモードとノーマルモードと両方のノイズの除去、といった役割をもっている。
低域のノーマルモードノイズが強い場合にはこの3種類の素子に加えてノーマルモードチョークコイルを用いると良い。またAC電源ラインにおいては安全規格による制約もあるので、耐電圧、絶縁距離、漏えい電流、難燃グレード等の項目を満足するよう注意が必要である。