1.ノイズ対策とは何か?電磁ノイズ対策とは何か?

(著)テュフズードジャパン株式会社

ノイズ対策とは、電磁ノイズ対策とは何か、をお話しする前にEMCというものに関する説明をします。

EMCとはElectromagnetic compatibilityの略称であり、日本語では電磁両立性(以降EMCとします)と言われています。電気・電子製品のシステム内のすべてのデバイスが意図された電磁環境において、エラー無しに機能できる状態として定義されていて、実に様々な製品に幅広く定義されています。

EMCのさまざまな世界的事故と背景

TWA Flight 800

ニューヨークからパリに向かうTWAフライト800は離陸直後に海上で爆発しました。航空機の主要部分の回収と再構築を含む長期にわたる調査の後、爆発の最も可能性の高い原因は、空気/燃料混合物に点火する中央翼の燃料タンク内の火花であると結論付けられました。
このスパークは、大きな電圧過渡、おそらくは電力線過渡または静電気放電の直接の結果である可能性がありました。
(参考元:https://en.wikipedia.org/wiki/TWA_Flight_800)

Nine Mile Point Nuclear Generating Station

ナイアガラモホークナインマイルポイント#2の原子力発電所で起きた、自発的なバルブ閉鎖は、作業員の無線ハンドセットによって発生した電磁干渉が原因でした。
すべての原子力発電所の設計と建設に置かれている安全性とセキュリティに多大な重点が置かれているにもかかわらず、一般的な無線ハンドセットからの比較的弱い電磁放射が大きな誤動作を引き起こしました。
(参考元:https://en.wikipedia.org/wiki/Nine_Mile_Point_Nuclear_Generating_Station)

このように意図しない見えない電磁干渉は2020年になった今もなお世界的に脅威を振るっています。これらはほんのわずかの一例にしかすぎぐ、コンピューティングデバイスは高密度化、高速化する一方、プリント基板や製品内部は複雑になり、EMCの課題は尽きることはなく、電磁解析技術と設計ツールの進化がEMCの必須要求事項へのコンプライアンスを厳守するために、様々な革新が継続して行われています。

しかし、EMCの適合性に関連する規制や基準は各国・地域別にみても、その対応はまちまちであり、政府や関連業界の指針も製品分類ごとに必死になって策定されていますが、それにもかかわらず爆発的な技術革新と急速な製品化は規制だけでは、EMC(電磁両立性)を保証するには十分でないことは明白で、例えばEU整合法令のEMC指令(2014/30/EU)に必須要求事項として、以下の通り規格順守ではないことが読み取れます。

a) 発生する電磁妨害波は、無線及び電気通信装置またはほかの装置が意図された使用が不可能になるレベルを超えないこと
b) 意図された装置の使用において、電磁妨害に対し期待される意図された使用において許容できない劣化を引き起こさず使用できるレベルを有すること

そしてEMCエンジニアの間では概ね、a)のことをエミッションb)のことをイミュニティと表現しています。エミッションという言葉はガスなどの排出性の事で化学用語、イミュニティという言葉は免疫性の事で医療用語として、エミッションは車の排気ガスの放出系、イミュニティは生体内で病原体などの非自己物質やがんの免疫系などの用語として用いられています。

ここまで説明してきたEMCの問題には、以下の3つの重要な要素があります。

  • 電磁エネルギーの発生源
  • 電磁エネルギーのために適切に機能できない受容体
  • 上2つの間のエネルギーを結合する経路

これらの3つの要素はそれぞれ独立している要素に過ぎないのですが、近年のデバイスの複雑さから、すべての状況で容易に識別できるとは限らないのです。これこそがEMC問題が難しくさせている諸問題のひとつで、通常はこれらの要素の少なくとも2つを識別し、そのうちの1つを減衰させることによって解決されます。

このような本質と実態はありますが規制や基準こそ難しく、各国・地域別においてもそれぞれの電磁環境は異なるため、標準化することに遅れが生じているのです。

ここで前述したエミッションイミュニティの要求を上記本質的な関連性を紹介したいと思います。

要求事項のエミッションから見た要素

源を特定し結合する経路を特定することが重要で規格は以下の通りの標準の骨格となっています。

◆放射性エミッション:空気中を媒体として放射する
◆伝導性エミッション:ケーブルを媒体として伝導する

要求事項のイミュニティから見た要素

外部からきたエネルギーの結合経路を特定し、適切な機能できる受容体に耐えられるようにすることが重要で、標準の骨格は以下の通りとなっています。

◆放射性イミュニティ:空気中を媒体として電磁放射に結合した受容体
◆伝導性イミュニティ:ケーブルを媒体として電磁伝導に結合した受容体

その他にも定格電流・電圧・電力の違いや、前述したインシデントの静電気放電、瞬間的な雷からの誘導保護、マルチメディア製品やパワーエレクトロニクス分野、プログラマブルコントローラやロボット、自動車や建設機器など特有の要求として、電磁干渉を及ぼす妨害の種類は多岐に渡ります。

EMC規格の種類

EMC規格の種類は以下の4つに分類され、国際電気標準会議(IEC)のガイド107や欧州電気標準化委員会(CENELEC)のガイド 24にて、以下のとおり定められています。

規格の種類 コンテンツ ねらい
基本規格 測定および試験方法を規定している 以下規格の参考文献
一般規格 住宅・商業・軽工業および産業環境において規定されている 製品の適合試験(EU官報の整合規格)
製品群規格 製品ファミリの特定製品群に関して規定されている 製品の適合試験(EU官報の整合規格)
一般規格よりも優先される
製品規格 特定製品に関して規定されている 製品の適合試験(EU官報の整合規格)
製品群規格よりも優先される

(著)テュフズードジャパン株式会社



2.ノイズ対策(電磁ノイズ対策)の現状

ノイズ対策(電磁ノイズ対策)の現状としては、IoTが促進され、小型化、高機能化が進む電子機器の基盤には多くのICや受動部品が高密度で実装されています。部品同士の間隔がとても狭く、部品間の電磁干渉が起きやすい状態です。
またCPUなどのクロック周波数も非常に高くなっていることや、多機能化が進みクロックの種類が増えていることも複雑な放射ノイズ発生の原因となります。

一方、機器のハウジングは軽量化や廉価化によってプラスチック化が進んでいます。
これは電磁波を漏えいしやすい構造です。

このように、多くのノイズ(電磁ノイズ)要因を考慮したレイアウトや配線、的確なノイズ対策部品(EMC対策部品)の実装が必要となります。

▽ノイズ対策(電磁ノイズ対策)に関連する用語を下記にまとめております。
<ノイズ対策(電磁ノイズ対策)関連用語集>

3.ノイズ対策部品の必要性

ノイズ対策部品(EMC対策部品)は本来使用したくはない部品です。しかしノイズレベルが法規制の規制値をオーバーしたり、誤動作が発生した場合にはしなくてはならない部品になります。

まずは電波暗室やオープンサイトでノイズ測定を行います。
そこで正確なノイズレベルの把握、ノイズ発生個所の特定を行い、最適なノイズ対策(電磁ノイズ対策)を決めます。
その後、具体的なノイズ対策(EMC対策)を施し確認測定を行います。

そこでノイズ規制値や客先要求値を満足していることが確認されれば、ノイズ問題、電磁ノイズ問題が解決したこととなります。
ノイズ問題をよく分析し、症状に合ったノイズ対策(電磁ノイズ対策)を施すことが重要となります。

図1.ノイズ対策部品例(EMIフィルタ/SPD/電磁波シールド)
図1.ノイズ対策部品例
(EMIフィルタ/SPD/電磁波シールド)


4.ノイズ対策(電磁ノイズ対策)に関連する規格・試験

電磁環境の悪化を防止するため、電子装置のEMIに対して規制があり、様々なノイズ、電磁ノイズに対して誤動作による損害が発生しないようにイミュニティ性能についても達成すべき水準があります。どちらにも定量的な規格があり、法的な強制力を有しています。
つまりそれぞれが的確にノイズ対策(EMC対策)を実践できていなければ、製品を販売ならびに使用することができないのです。

実際にはそれぞれの規格が定めた方法でノイズ対策(電磁ノイズ対策)に関する測定や試験を行い、規格をクリアしていることを証明する必要があります。

図2にノイズ対策(電磁ノイズ対策)に関連する主な測定と試験の種類を示します。

※ここに掲げている測定や試験の名称は一般化した物を使用しており、具体的にはそれぞれの規格に型番と名称があります。

▽詳細な規格情報に関しては下記をご参考下さい。
<ノイズ対策(電磁ノイズ対策)関連規格>

そしてノイズ対策(電磁ノイズ対策)の最終的な関門であるEMC試験ですが、日本国内には様々なEMC試験サイトがありそれぞれの試験所には特色があります。対応している規格、備えている設備、在籍するEMCエンジニア、等々、自社に合った試験所を選定することが望まれます。

CENDでは日本全国のEMC試験所の最新情報を掲載しております。

▽ノイズの基準を満たしているかを試験する場所の選定
<EMC試験サイト検索>

5.ノイズ対策部品の使い方

ノイズを除去する方法は大きく分けて4つに分類されます。

反射 ノイズ源側にノイズ成分だけを押し戻し、信号成分だけを通過させる。
吸収 ノイズ成分を対策部品で吸収し、熱エネルギーに変換する。
バイパス ノイズ成分をグラウンドに逃がす。
シールド シールドを使用することで放射ノイズ対策(EMC対策)を行う。

伝導ノイズは信号ラインを伝わるだけでなく、ケーブルなどのアンテナとして機能する箇所が存在すると、しばしば放射ノイズに変身します。このため伝導ノイズ対策(EMC対策)は放射ノイズ対策にもなります。
ノイズ対策部品(EMC対策部品)にはシールド材の他に、ケーブルに取り付けて放射ノイズを吸収し熱エネルギーに変換するフェライトコアや、ノイズを反射、吸収、バイパスする基板実装タイプの色々なノイズ対策部品(EMC対策部品)があります。

図3はSMDタイプの基盤実装用ノイズ対策部品(EMC対策部品)の一覧です。
フィルターを用いるフィルタリング
例:コンデンサEMIフィルタフェライトコア、コモンモードチョークコイル、等々
シールド材を用いたシールディング
例:ケーブルのシールディング、シールディングテープ、電磁波吸収シート電磁シールド材磁気シールド材、等々
グラウンドをとることでノイズ対策(EMC対策)するグラウンディング
例:ストラップ、クランプ、等々

インダクタやコンデンサは様々な用途に使用される汎用部品ですが、全体の60%はノイズ対策部品(EMC対策部品)と見なされます。ノイズ対策(電磁ノイズ対策)を効果的に行うには、信号成分とノイズ成分を的確に切り分けることが必要です。
切り分ける方法としては、

  • 周波数の違いのよるもの
  • 電圧レベルの違いのよるもの
  • 伝播モードの違いのよるもの

の3つがあります。
つまり信号成分は周波数が低く、ノイズ成分は周波数が高いとの前提に立ったもの、信号成分は電圧が低く、高い電圧成分があった場合はノイズとみなすもの、ディファレンシャルモードで伝播するのはノイズ成分とみなすもの、などです。

CENDでは様々なノイズ対策部品(EMC対策部品)を検索可能です。

▽ノイズ対策部品(EMC対策部品)の選定に
<ノイズ対策部品(EMC対策部品)検索>


6.ノイズ対策(電磁ノイズ対策)の効果

対策部品で行うノイズ対策(電磁ノイズ対策)とは、対策部品を挿入することにより、ノイズ(電磁ノイズ)のレベルを下げることです。この下がるレベルは、ノイズ対策部品(EMC対策部品)の性能の他、使用環境条件によって変わります。そのため同じノイズ対策部品(EMC対策部品)を使用しても、使う場所、使っている状態により異なります。
また、ノイズ対策部品(EMC対策部品)の効果表示も一定の約束をされた使用環境条件での結果の為、これがわからなければ正確に活用はできません。

ノイズ対策部品(EMC対策部品)を挿入することにより下がるレベルの大きさは、ノイズ対策部品(EMC対策部品)の性能とノイズ対策部品(EMC対策部品)の使用環境で決まります。ノイズ対策部品(EMC対策部品)の性能は、

  • ノイズ対策手法(方式)
  • ノイズ対策部品(EMC対策部品)の回路
  • ノイズ対策部品(EMC対策部品)の素子の定数
  • 浮遊容量、残留インダクタンスなど、ノイズ対策部品(EMC対策部品)の劣化要因

で決まります。
また上記に記載した通り、ノイズ対策部品(EMC対策部品)で行うノイズ対策(EMC対策)の効果は、ノイズ対策部品(EMC対策部品)の性能だけでなく使用環境も重要な要素となり、主には

  • 入力インピーダンス
  • 出力インピーダンス
  • 接続用のグランドの残留インダクタンス
  • 定在波の発生環境

などがあります。
ノイズ対策部品(EMC対策部品)の正味の対策効果を測定するときは、ノイズ対策(EMC対策)効果に影響を与える要因を無くすか、標準化する必要があり、入力インピーダンスと出力インピーダンスは多くの場合50Ωに標準化され、グランドの残留インダクタンスは通常の使用状態よりはるかに小さくなるように工夫された冶具を用いて測定します。
また測定系では大きな定在波が立たないよう10dB程度のアッテネーター(絶縁減衰器)を試料の両端に入れたり、方向性結合器が入った測定計で測定しています。

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