EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-繋がる時代とEMC

一般社団法人 国際標準化協議会 会長
正田 英介

スマートシステムやI.o.T.の導入が社会的に推進されている中で、「繋がる」が一つのキーワードとして、装置や機器の機能の新しい形として積極的に利用されるようになっている。機器相互の繋がりは、ディジタルカメラで撮影した写真をBluetoothでスマートフォンに飛ばしてアプリで整理したり、友達に転送するような情報の伝送にも、USBケーブルで接続することで電源を省略して機器を小型化し、効率化するような電力の伝送にも、活かされている。電力供給システム、交通システム、医療システムなどの社会インフラのスマート化では、多種・多数の機器・装置が情報ネットワークやエネルギーネットワークに接続されて、システム全体の運用目標に沿って動作や運動をするとともに、情報を共有したり、外部情報によって制御されたりする。

従来、機器・装置のEMCを実現するための要求事項は、住宅地域・ビジネス地域・工場地域などのような典型的な電磁環境や、病院内などのような特異な電磁環境に対して定められていた。しかし、電子装置の機能の向上、ビジネス環境の変化、生産プロセスのスマート化などによって、想定されていないような電磁環境での機器・装置の利用も生じている。「繋がる」世界では、さらにネットワーク自体の環境も従来とは異なり、時変的にもなる。例えば、ビルのエネルギーマネージメントシステムを介して電力供給を受けている場合の電力品質は系統に連系している状態と自立運転している状態と異なるし、新たに導入された機器と従来から使ってきた機器の間のイミュニティレベルの差が誤動作を生じたりする可能性がある。規格適合性だけでは対応の難しい状況も起こりうる。

システムの安全性の領域ではRAMS評価のように機器・装置の性能がリスクとの関連で考えられ、規格化されている。我が国の社会慣習の下ではリスク論はなかなか受け入れが難しく、特に社会インフラについては、鉄道事故への対応にも見られるように、絶対的な安全性を求める傾向がある。海外では、社会的にも生活上や装置・システムの利用に伴ういろいろなリスクは認識され、理解されている。EMCに関わる例としては、停電によるリスクが保険料との関係で評価されているなどである。社会インフラに関連するリスクデータの収集・評価・分析も広く行われており、公表されて一般の理解を深めている。例えば、年間200時間鉄道を利用した場合は注意深く年間一万マイル自動車を運転した場合に比較して2倍の死亡リスクがあるなどである。

「繋がり」によって我々の生活の利便性が得られる反面、電磁環境の状態や利用している機器の適合性は複雑になり、EMCの評価は難しくなっている。かつてヨーロッパの鉄道システムで問題とされたようなEMCの視点からのシステム両立性(system compatibility)への対応が必要になるわけであるが、対象とされるシステム自体の多様性や可変性のためにエミッションもイミュニティも機器・装置の側での十全な対応が難しくなる。状況によっては機器・装置にもシステムにもEMCに起因するトラブルが起こりうると考えなければならない。スマート化の進展とともに、EMCに基づいた要求事項もリスクの視点からのクラス分けが求められることになろう。ネットワークの時代のEMCについて取り組むべき時期が来ているように思う。