EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

国際無線障害特別委員会運営委員会委員
(電波利用環境委員会I作業班主任)
雨宮 不二雄

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。IoTや5Gの導入に向けた研究・開発活動の本格化に伴い、EMC標準化に関する検討課題も年々複雑化してきています。CISPRにおいても各小委員会(SC)内部あるいはSC間をまたがるタスクフォース(TF)等を設立して、30MHz未満の放射妨害波測定法、無線電力伝送(WPT)の許容値と測定法、ISM機器、家電機器、マルチメディア機器(MME)等の製品規格の制定・改定に関する検討が急ピッチで進められています。このような状況のもと、昨年のCISPR合同委員会は10月2日~10月6日にロシア・ウラジオストックで開催され、例年と同様に多くの課題が審議されました。ここではCISPR総会と各SCの主要課題の審議状況と今後の動向を紹介します。

  1. CISPR総会:①組織・運営関係:SC77Aから提案された9kHz~150kHzの伝導妨害波許容値を検討するグループの設立につきましては、SC/H内にSC77Aとの合同作業班(JWG)を設置して検討することを合意しました。また日本提案の、製品規格に許容値の技術的根拠を追加すべきではないかとの案件につきましては運営委員会(SC/S)で継続審議することになりました。②技術的事項:サージイミュニティ試験規格の第2版と第3版の相違点が議論され、本問題の提起元であるSC/Iが、SC77Bからの回答を勘案して継続検討することになりました。また、WPTに関するITU-Rとのリエゾンは現在、電気自動車(EV)用が中心となっていますが、家電機器、MMEのWPTもITU-Rとの連携が必要かつ重要であることが改めて認識されました。
  2. SC/A:①30MHz~1GHzの測定におけるEUT寸法の基準:CDVは承認されましたが、反対した国内委員会(NC)より多数のコメントが提出され、これらを考慮してFDISを発行するとともに同FDISをINF文書として各SCにも回付することになりました。②FARを用いたエミッションとイミュニティ測定:SC77Bから合同タスクフォース(JTF)の廃止を含めた見直し要求があり、審議の結果、現在のJTFは廃止して新たなJTFを立ち上げ、SC77Bに検討への参加を打診することになりました。③VHF-LISNを使用した電源ケーブルの終端:今回はSC/Iとの合同アドホック(JAHG)でSC/AのDC文書に対する各国コメントが審議され、審議未了案件は本年2月に開催予定のSC/I/WG2の中間会議に持ち越されました。
  3. SC/B:①ISM装置のエミッション規格(CISPR11)における無線機能を有する装置の扱い:本件はCISPR11固有の課題ではないためSC/Sでの議論に委ねることになりました。②EV用のWPT:CDVの投票期間中であり審議は行われませんでしたが、欧州放送連合(EBU)より高調波の許容値を10dB緩和する案に対し、放送波への強い懸念が表明されました。
  4. SC/F:①家電機器等のエミッション規格(CISPR14-1)関係:無線電力伝送(IPT)のCD文書が審議され、LLASとループアンテナを用いた測定結果の間には、許容値に対する整合性が必要との議論がありましたが、CDVステージへ進むことになりました。②家電機器等のイミュニティ規格(CISPR14-2)関係:統計的評価方法を削除することが合意されました。③照明器具のエミッション規格(CISPR15)関係:ネットワークで制御する照明器具のエミッションを、電流プローブ(CP)、容量性電圧プローブ(CVP)、電圧プローブ(VP)を用いて測定する方法が議論され、VPを用いた方法は将来的に削除することが確認されました。
  5. SC/H:①住宅・商業・軽工業環境用共通エミッション規格(IEC 61000-6-3)第2.1版の改定:CDVの否決を受けて照会されたDC文書に対するNCコメントを、2017年11月のWG(サンノゼ)で審議し、CDとするかCDVとするかを決定することになりました。②超低電圧照明用配線からの放射モデル:これまでの検討結果をDC文書化し各国NCに意見照会することになりました。③150kHz以下の干渉モデル:干渉モデルのみならず許容値も検討して共通エミッション規格への反映を目指すことになりました。
  6. SC/I:①MMEのエミッション規格(CISPR32)第2.0版のメンテナンス:第2.0版の修正に向けて抽出された27件の短期的課題を整理して6件のCD文書が発行されましたが、各国NCコメントは本年2月に予定されている中間会合で審議することとなりました。②MMEのイミュニティ規格(CISPR35)初版のメンテナンス:初版の修正に向けて14件の課題が抽出され、12のTFが設立されて検討を開始しましたが、各TFの検討結果についても本年2月の中間会合で審議することとなりました。③今回の会議でWG2およびWG4が解散され、それぞれ新たにメンテナンスチーム(MT)であるMT7とMT8が設立されました。

わが国は、例年、CISPR合同会議はもとより中間に開催されるWG、アドホック会合等に多数の寄与文書を提出し、多くの案件で標準化に向けた議論を先導してきています。これらは言うまでもなく、わが国のエキスパートの方々の弛まないご努力と、総務省をはじめとします関係諸機関・団体、工業会等の皆さまの強力なサポートの賜物でございます。

最後に、今年のCISPR合同委員会は10月15日~26日の二週間に渡って釜山(韓国)で開催される予定であり、わが国からの益々の貢献が期待されています。引き続き、そしてこれまで以上にCISPRの標準化活動に対します関係各位のご理解とご指導・ご支援をよろしくお願い申し上げます。