EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

独立行政法人 自動車技術総合機構 交通安全環境研究所
石井 素

平成30年の新年を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

鉄道の海外展開における認証の重要性

平成29年5月に政府によりとりまとめられた「インフラシステム輸出戦略」では、ここ数年政府が打ち出してきた政策パッケージ等もあり、インフラ受注額は2015年で約20兆円と一定の成果をあげてきているとされました。「熾烈な国際競争に勝ち抜き、世界のインフラ需要が拡大するペースにあわせて自らのビジネスを拡大していくことは容易ではないが」としつつも、我が国の企業のインフラシステム受注を(事業投資による収入額等も含み)2020年に約30兆円とすることが目標として掲げられています。さらに、「特に鉄道分野において、海外向け車両の仕様の検証、国内認証機関の充実、我が国技術の国際標準化、内外メーカーとの連携等を推進」していくことが掲げられており、鉄道は国の戦略の上でも重要な産業として位置づけられています。

鉄道の海外展開は、国レベルでは、リニア新幹線や新幹線の輸出について引き続き推進されています。これに加えて、民間企業においては鉄道車両、信号、制御機器等を海外に輸出しており、その動きは加速化されています。その際には、製品認証(国際規格に適合していることを認証する。)が必須となっており、交通安全環境研究所では、平成24年以降、NITE(製品評価技術基盤機構)から認定(現在は、IEC(国際電気標準化会議) 62425(信号の安全関連)、IEC62279(ソフトウェアの安全)及びIEC62280(通信の安全関連)の認定)を受けた鉄道の認証機関として、システムも含めた製品の認証を行っています。平成29年10月末段階で、21件の認証実績があり、今後も認証を通じて、民間企業のシステムの輸出等の支援をしていく予定です。

認証が要求される規格としては、上述のIEC62425、IEC62279、IEC62280等があり、近年ではIEC62278(RAMS規格)への要求が基本となりつつあります。これは、システムの安全性(Safety)のみならず、可用性(Availability)、保守性(Maintainability)、信頼性(Reliability)も考慮したバランス良い設計のためのマネジメント規格であり、日本の鉄道メーカーは、このRAMS規格の適用に労力を割いています。交通安全環境研究所では、平成28年3月にIEC62278を適用規格とする認証書を発行しましたので、その実績に基づき認定規格の拡充に向けて諸手続を行なっているところです。

一方、EMCに関する規格は、IEC62236(鉄道分野の電磁両立性)やIEC/TS62597(磁界の人体ばく露に関する測定手続き)があり、前述の規格から参照されるため、IEC/TS62597は直接認証を行う規格にはなっていないが、これらの規格の認証を行うにあたり重要な規格として位置づけられており、EMC規格の動向についても注視していく予定です。

鉄道技術展の盛況

こうした状況の中で、平成29年11月29日~12月1日に、幕張メッセにおいて鉄道技術展2017が開催されました。認証を通じた輸出の支援を効果的に行うためには、展示会等への参画を通じた国内外の知名度の向上も重要と考えており、交通安全環境研究所もパネル展示に取り組みました。隔年で開催されるこの鉄道技術展は非常に盛況で、今年は500を超える出展があり、3万人を超える過去最高の参加者を記録しました。インフラから車両、旅客サービスまで幅広い展示がされましたが、バッテリーやコンバータなどの要素技術も着実に進歩しており、EMCに関係の深い製品等の展示も行われ、今後も鉄道におけるEMC対策は継続的に取り組む課題と認識されます。

鉄道とEMC

鉄道では、変電所設備、車両、軌道及び信号システムなど、非常に多様な電気・電子機器が使用されており、電磁波が放射されやすい条件下にあります。今後、無線列車制御システムの導入や蓄電池搭載車両の運行等、電磁ノイズの影響を受けやすいシステムや電磁ノイズを放射しやすいシステムが普及すると、改めてEMCに対する課題を整理する必要性が高くなっていくのではないでしょうか。このようなことから、交通安全環境研究所では、鉄道からのEMCに関して、様々な鉄道路線での実態の把握、評価方法に関する研究テーマを継続的に行っています。これらの研究成果をもとに、EMCに対する日本の測定・対策技術を交通安全環境研究所が認証し、海外に展開できる可能性があるならばその支援も積極的に行っていきたいと考えています。