EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

一般財団法人 電気安全環境研究所
山下 洋治

みなさま、新年明けましておめでとうございます。

昨年はCISPR14-1の審議状況をご紹介しましたが、その後多くのCD文書が発行され審議に進展がありましたので、今年もまずはCISPR14-1の審議概要をご紹介します。今回のCISPR会議の開催地はロシアのウラジオストク。ヴラジー・ヴォストーク:東方を制圧する町、と言うロシア帝国時代の侵略主義丸出しのネーミングのこの町は、かつては日露戦争の頃に活躍したウラジオ巡洋艦隊の停泊地であり、ソ連時代には太平洋艦隊がおかれた軍港で立ち入ることは出来なかった町。現在は成田から2時間で到着できる、最も近いヨーロッパです。

CISPR14-1 Ed.6 Amd1の審議

  • IPT機器の許容値・測定方法の導入
    昨年はCD文書が発行され、TF-IPT(誘導式電力伝送装置の規格策定タスクフォース)に参加していなかった国などからも多くの意見が提出されました。日本からも、IH調理器のリミットをそのままIPT機器に適用することに懸念があることなどを提出しました。審議のポイントは、①いくつかの用語の定義を見直す、②測定時の動作条件について多くの意見が提議されたため、小グループを設置して再検討することとなった、③CISPR11の審議ではEV用充電器の様な高出力の製品を取り扱うためリミットの緩和が議論の中心となっているが、CISPR14-1で扱う製品は比較的出力が小さいためリミットの緩和はせず、IH調理器のリミットをそのまま適用する、でした。
  • クリック測定方法の見直し
    2年前のストレーザ(イタリア)会議から検討が開始され、今回はCD文書に対する審議でした。測定手順を見直すこととなり、予備測定の結果から導出されるクリック率はこれまで、150kHzと500kHzの2周波だけで算出すればよかったものを、1.4MHzと30MHzにおいても個々に算出する方法に変更することとなりました。また、第6版への改正の際に、電動工具のリミットが意図せず変更されていたことが指摘され、元の第5.2版の状態に戻すことが確認されました。
  • 6GHzまでの周波数拡大
    最近の製品の高周波化に対応して、測定周波数範囲を6GHzまで拡張する提案です。内蔵するクロック周波数が108MHzを超えるものは、その周波数に応じて最高で6GHzまでの要求が追加されます。特に反対意見はなく合意が得られました。

次に、電安法の最新情報をご紹介します。電安法ではこれまで長く、別表第十二(以前は省令第2項)に採用されているEMC規格はJ規格と呼ばれる国が作成した規格でした。それがこの度初めて、民間規格が採用されることとなりました。

CISPRJ 15:2017とCISPRJ 32:2017の電安法への 採用

CISPRJ規格は、VCCI協会が事務局となって審議され、作成された規格です。2017年3月の電気用品調査委員会において、電安法の別表第十二への採用が提案され、その後の審議で採用されることが了承されたものです。2017年12月1日に、電気用品の技術上の基準を定める省令の解釈の一部(整合規格の採用)が改正され、整合規格として別表第十二に採用されました。移行期間は3年間です。

ここ数年、IoT化やAI、ロボット、EVなどなど、電気製品の高度化・複雑化が著しく進んでいます。それに合わせてCISPR規格の改正審議が多いばかりではなく、高周波だけではなく低周波へも含めた周波数の拡大や、DCポートなどの新しいリミットの作成、WPT機器の審議でのリミットの見直しなど、新しいモノへの対応が目立つようになりました。国内の電安法においてもEMC規格では初めて民間規格が採用されるなど、新しい動きが始まっています。これら新しい動きに対応しながら、みなさまに最新の試験・測定サービスをご提供できる体制を整えるよう努めてまいりますので、本年も宜しくお願いいたします。