EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

総務省 情報通信審議会 情報通信技術分科会・電波利用環境委員会主査
IEC/TC106国内委員会委員長
首都大学東京教授
多氣 昌生

新年、謹んでお慶び申し上げます。昨年は電波利用環境委員会による情報通信審議会への答申事項がCISPR会議の対処方針のみで、一昨年のようにめまぐるしい動きはありませんでした。しかし、この委員会の活動自体が停止しているわけではなく、CISPR関連の作業班、アドホックグループなどの活動などは活発に行われました。

2017年のCISPR会議はロシアのウラジオストックで開催されました。電波利用環境委員会から情報通信技術分科会に報告した対処方針では、過去数年と同様に、ワイヤレス電力伝送(WPT)を重点審議事項に挙げました。B小委員会、F小委員会、I小委員会でそれぞれ審議が進められています。B小委員会では、WG1のAHG4がCISPR11の適用範囲にWPTを新たに加えるための検討を行っています。AHG4では、わが国の主導により、この課題についての投票用委員会原案(CISPR/B/687/CDV)をとりまとめ、現在、投票結果の集計が待たれています。この文書が提案する、電気自動車用のWPT装置からの妨害波の限度値に関しては、装置の利便性を高めるように緩和を主張する意見と、無線障害を懸念する意見が収束せず、困難な状況でしたが、最終的に出力電力によって異なる許容値を適用する案として原案がまとめられました。文書は、わが国のエキスパートたちの多大な貢献によって作成されました。これら一連の貢献により、AHG4のコンビーナを務めておられる久保田文人氏(TELEC)がIEC1906賞を受賞しました。ご尽力に感謝するとともに、心よりお祝い申し上げます。

電波利用環境委員会では、人体防護に関する審議も行っています。「先進的な無線技術に関するワーキンググループ」は、2016年9月に総務省の「生体電磁環境に関する検討会」のもとに設置されたワーキンググループで、WPTや5G無線通信の実用化にともなう電磁界ばく露に対する人体防護について検討しています。特に、5G無線通信では、これまであまり利用されていないミリ波帯の電波利用が想定されることから、人体防護についても新たな検討課題が生じています。国際的な人体防護ガイドラインである国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)ガイドライン、またIEEEC95.1規格でも、ミリ波の扱いは整合しておらず、改訂作業のさなかです。両ガイドライン改定の中心となっているのが、先進ワーキングの主任でもある平田晃正先生(名工大)です。わが国の電波防護指針も、これらと連動した改訂を視野に入れる必要があります。電波防護指針の改定は、電波利用環境委員会において審議し、情報通信審議会に報告して答申されるものですから、当委員会でも、その動向を注視しなければなりません。

人体防護に関連しては、IECのTC106「人体ばく露に関する電界、磁界、電磁界の評価方法」が測定・評価方法の国際規格を策定しています。わが国でのTC106の活動は、審議団体である電気学会のもとで、高周波委員会(委員長 渡辺聡一氏)と低周波委員会(委員長 山崎健一氏)がそれぞれ活発に活動しています。その活動については、本誌へのそれぞれからの寄稿を参照していただきたいと思います。TC106で審議される5G等の人体ばく露測定法は、電波利用環境委員会で情報通信審議会答申案として審議することが想定されます。

電波利用環境委員会の活動は多方面にわたり、多くの方々による献身的な努力によって支えられています。皆様のご尽力に感謝申し上げますとともに、本年も皆様のご理解とご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。