EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

国土交通省航空局安全部航空機安全課長
川上 光男

新年明けましておめでとうございます。皆様には、つつがなく新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。
国土交通省航空局では現在開発中の国産航空機の安全性審査を担当しておりますが、この機会にEMCと航空機の関係についてご紹介させていただきます。

1.航空機及び機器の技術革新

数十年来のコンピュータ技術の発展は、私たちの生活に大きな変化をもたらしてきましたが、航空機も例外ではありません。航空機には多数の電気・電子機器が搭載され、各種機能がコンピュータ化されています。例えば、1970年代に就航した通称ジャンボ機は、コックピットの操縦桿と機体姿勢を制御する各操縦舵面間は金属のケーブルで接続され作動されていました。現代の航空機は、操縦桿からの入力を電気信号に置き換え、コンピュータによって機体姿勢を制御しています。その他、ディスプレイに各種計器類を統合し表示する機能、エンジン推力を制御する機能、客室内の気圧・気温を制御する機能等もコンピュータ化され、複雑なシステムが高度に統合化されています。

2.EMCと航空機

更に、EMCに関係が深いものとして重量軽減・燃費向上を目的とした機体構造への複合材の多用化の流れがあります。一般に、複合材の使用は、電磁シールドの面で不利に作用することが考えられています。複合材の電磁シールド特性は、それまでの金属性の材料に比較し著しく低く、外来波の減衰を大きく期待できないため、適切な処置を施さないと搭載機器が一層過酷な環境に曝されることを意味しています。

航空機の安全性を脅かす外来波として代表的のものは、雷撃と高強度放射電磁界(HIRF)です。電子機器を多用する現代の航空機にあっては、これらは現実的な脅威となり、2000年代に入って航空機の安全基準に雷撃・HIRFへの防御要件が追加されました。すなわち、航空機の各システムが雷撃・HIRFの影響を受けた時、そのシステムが悪影響を受けず、安全な飛行及び着陸ができることを機器レベルから機体レベルまでの解析・試験により証明する必要があります。雷撃の場合は機体に搭載される電子機器に対し瞬間的に数百から数千ボルトの誘導トランジェントが加わることを設計段階で考慮しなければなりません。HIRFによる影響は、数千ボルト/メートルの電界強度を想定する必要があります。HIRFは高出力、高利得空中線を有する地上放射源(気象レーダなど)の近傍を航空機が飛行することを想定したもので、特に離着陸時等の低高度においてその影響を考慮しなければなりません。

3.航空業界で適用されるEMCの基準

航空機に適用される安全基準は世界的に共通であり、航空機の搭載機器に対する具体的な試験方法はRTCA DO160「Environmental Condition and Test Procedure for Airborne Equipment」が中心となっています。DO160は、全26のセクションから構成されており、EMCに関連する記述には多くの紙面が割かれています。本日紹介させて頂いた雷撃やHIRF以外にも多数のEMC関連基準が各セクションに設定されています。このことは、高度に電子化された現代の航空機にとってEMCの重要性を示す事実だと理解しています。

4.最後に

以上のように、最近の航空機は外来波への影響を十分に考慮した設計が求められています。時代の要請や技術革新に応じてEMC関連の要求基準も都度変更されてきており、今回ご紹介したDO160も数年以内に改定をすべく協議が行われています。航空局としても必要に応じて基準制定に参画し、航空機の安全確保のため適切に対応する所存です。