EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

一般社団法人 エレクトロニクス実装学会 電磁特性技術委員会委員長
秋田大学
田中 元志

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

今日、我々の周りを見渡すと、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、自動車など至る所に様々な電気・電子機器が使用されています。それらの機器は、高速・高周波数、省電力、小型(高密度実装)化され、また有線・無線で接続される様々な回路が混載されています。そのため、これまで以上のEMC性能が求められてきています。

最近、人工知能(AI:Artificial Intelligent)技術の進展が各方面で話題になっています。これからのEMCを考えると、この分野でもAI技術は切り離せない気がします。キルヒホッフの法則、マクスウェルの方程式などの電気回路学や電磁気学に関する事項はもちろん、これまでに蓄積されてきたEMC、SI(Signal Integrity)、PI(Power Integrity)などの実装に関わるすべての「技術」や「秘術」をAIに学習(深層学習など)させることで、最適なEMC実装設計を実現できるかもしれません。近い将来、設計者が意識しなくても全てにおいて最適な設計が行われる時代がくるかもしれません。しかし、どんなAIに、何をどのように学習させるとよいのでしょう?実現への課題は多いかもしれません。まずは、EMC技術の実環境における定量的評価とその知識の蓄積、およびそれらのデータベース化が重要でしょう。

エレクトロニクス実装学会電磁特性技術委員会では、より高いEMC性能を有する実装設計の実現を目指し、EMCモデリング研究会(主査:澁谷昇/拓殖大学)、超高速・高周波エレクトロニクス実装研究会(主査:井上博文/井上技術士)、低ノイズ実装研究会(主査:山下俊紀/サンリツオートメイション)の3研究会を統括し、EMCに関わる広い分野の融合を図りながら多面的に議論しています。また、第一線で活躍している方々を講師に招いた「サマーセミナー」を主催しています。以下に、これらの活動を簡単に紹介します。

  1. EMCモデリング研究会
    シミュレーション技術を用いてプリント回路、配線の構造などEMCに関連する電磁気的特性について検討する研究会を年6回開催しています。モデルの作成方法、高効率な計算方法、シミュレータによる結果の差異なども議論しています。
  2. 超高速・高周波エレクトロニクス実装研究会無線通信、大容量データなどを扱う情報機器における伝送路解析、実装構造に加えて、高周波数を扱う半導体、部品・材料、ものづくりのプロセスなど幅広い分野を対象として、公開研究会を年4回開催しています。
  3. 低ノイズ実装研究会CADやシミュレーションツールを用いた基板設計、試作、および放射ノイズ測定から最適な設計ルールを抽出し、EMC設計におけるガイドラインの確立を目指しています。現在、第8回目となる「EMC設計技術実践講座」を開催中です。
  4. サマーセミナー回路・基板実装におけるEMCとその関連技術について、毎年8月に開催しています。2017年のサマーセミナーでは、『ここが聞きたいノイズ対策設計~解析・シミュレーションから実測まで~』をテーマにしました。シミュレータはノイズ対策などにおいて有用なツールですが、欲しい結果を得るためには、適切なモデルの作成が必要です。そこで、ノイズ対策の基礎、最適設計の考え方、さらには実測による対策事例まで含めた6件の講演をいただきました。さて、今年のテーマは?

EMCの検討・議論は、電気を利用する機器を複雑な電磁環境の中で共存して使用するために必要不可欠であり、信号計測や信号処理などにおいても非常に重要です。本学会本委員会の活動・取り組みに興味を持たれましたら、サマーセミナーや公開研究会などのイベントに是非ご参加ください。