EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

独立行政法人 自動車技術総合機構 交通安全環境研究所 自動車研究部
伊藤 紳一郎

新年あけましておめでとうございます。

新年のご挨拶にあたり、自動車のEMC に関して、 昨年の動きや日頃思うところを記載したいと思います。

自動車業界では、電動化と自動運転化をめざして 熾烈な開発競争がなされていることは皆様もご存じのとおりです。

これらを実現するためには電気・電子技術が不可欠ですが、駆動系がハイパワー化するとともに制御系は高速化・低電圧化しており、妨害を与えたり受けたりする機会が増大しています。このため、自動車のEMC対策は避けて通ることができず、最重要課題の1つとなっております。

ここで、自動車のEMCに関する国際基準は国連協定規則第10号(UN Regulation No.10、通称R10)であり、最新のバージョンは2014年に発効した05シリーズです。わが国もこれを批准しており、技術的要件においては国内基準である「道路運送車両の保安基準」と同一性が確保されています。

電動化・自動運転化された車両の認証試験を実施するにあたっては、実際の試験運用の実態等を踏まえた規定の明確化や、国際規格との整合性の観点などから、R10のすみやかな改正が望まれています。

そこで、このR10を専門的に審議する国連の組織であるWP29(自動車基準調和世界フォーラム)/GRE(灯火器専門家会議)の下に「Task Force on Electromagnetic Compatibility(TF EMC)」が一昨年の1月に設置されて以降10回の審議が行われ、作成されたR10-05シリーズの改正案が昨年10月のGRE本会議に提案されました。本会議においては、改正案の適用時期に関する過渡規定等に関する事項を中心に審議が行われました。TF EMCでは、当該審議の結果等を踏まえ、引き続き、過渡規定等に関する改正案について、本年4月のGREに向けた修正作業を進めることになっています。

一方、一昨年8月からのR10の原則全面適用に備えて整備した当研究所自動車認証審査部の車両用及び部品用のEMC試験設備もお陰様でほぼ完成することができ、記念すべき最初の認証試験も終えることができました。今後とも皆様に是非ご活用いただけたらと思います。

なお、R10では、ISO、IEC、CISPR規格等の膨大な量の国際規格を参照しています。

これらの規格が改正されれば数年後にはR10に採用される可能性もあり、その改正動向からも目を離すことはできません。

これら参照規格のうち、充電インフラ関連のIEC 61000系の規格を除く規格をメンテナンスするための国内対応組織は、(公社)自動車技術会CISPR分科会となっています。当研究所では、新たな電波暗室での測定も可能となったことから、今後ともCISPR分科会の活動に協力していきたいと考えています。

最後に本年の正月を迎えるにあたり、考えるところを少し書かせていただきます。

私事で恐縮ですが、自動車のEMCを担当させていただき30年近くになります。この間、多くの先生方からご指導・ご鞭撻もいただき、様々な貴重な経験をすることができました。

その中でも特に大切なことは、何の物理現象を測定しているのか、その測定器が出力する数値はどういう意味を持っているのか、よく考えることだと思います。スペアナで単発パルスを測定できないのは有名な話です。

高性能な測定器は何らかの数値を出力しますが、日々のルーチン作業に埋没するだけでなく、初心に帰って考える余裕を持ちたいと思っています。

今後は、測定設備の定期的メンテナンスだけでなくて、長期的視野に立った人材育成も重要だと考えています。

今後とも皆様のご理解とご協力をよろしくお願い致しますとともに、読者の皆様のご活躍とご健勝を祈念いたします。