EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-

元・電気学会・スマートグリッドにおける電磁的セキュリティ特別調査専門委員会・委員長
日本オートマティックコントロール株式会社・技術顧問
瀬戸 信二

1.はじめに

平成26年、電気学会に「スマートグリッドにおける電磁的セキュリティ特別調査専門委員会」(以下「この委員会」という。)が設立され、昨年3月に当初に予定した3箇年の作業を経て、委員会の報告書を作成することができました。目下は単行本「IOT・スマート時代の電磁的セキュリティ(仮題)」の刊行に向けての編集段階にあります。

この報告書は、スマートグリッドの安心・安全な運用を脅かす要素の一つである「意図的な電磁波攻撃脅威」を調査・分析・予測し、脅威に対する防護手法を提言するものです。

昨年9月に、北朝鮮が大陸間弾道弾を使用する「高々度核爆発を手段とする電磁波パルス(HEMP:High-altitude Electro-magnetic Pulse)」攻撃を行う能力を有するとの発表を行うや、(完成程度の真偽は不明確ですが)「電磁波攻撃脅威」が現実のものとなりつつあることとなりました。

この脅威は、まさにこの報告書が対象としている「電磁波攻撃脅威」の一つの形態でもあります。

2.強力電磁波による攻撃

強力電磁波による攻撃は、電子機器等のイミュニティ性能に関する弱点を狙う攻撃手段であり、前記のHEMPのほか、意図的な電磁波の発生(I-EMI:Intentional Electro-magnetic Interference)などの手段が使用されるものと想定されます。

現代社会は活動の基盤が、高度に通信機器と電算機に依存する社会であり、悪意による強力な電磁波による社会インフラに対する攻撃は、大きな社会的混乱を引き起こすことになります。

軍事技術として進歩を遂げてきた「電子戦(Electronic Warfare)」技術は、旧来の戦争手段が「爆薬等による破壊と殺戮」であったのに対して、直接的な破壊行為を伴わない「電磁波による電子機器の破壊(または誤動作)」という戦争手段であり、このような「電子戦」用の器材として開発された強力電磁波の発生手段が、小型・安価で入手も比較的容易となり、軍事用以外(テロなど)にも転用されやすくなっています。

平時である現在においては、ネットワークからの侵入によるコンピュータ被害についての話題が先行していますが、有事においては、手段を選ばない攻撃が行われることは必至となります。

3.世界の動向

電磁波が戦争やテロによる攻撃用手段として使用されるという報道は、すでに1990年代から散見されます。(1)(2)

また、1996年に米国において発生した「TWA800便(旅客機)の墜落事故」の原因が、米海軍艦船からのレーダ波照射であった(3)~(5)ことを考えてみても、電磁波攻撃が重要脅威となることは容易に類推できます。

米軍は 「E-Bomb(電磁波爆弾)」(6)を、2003年の イラク戦争において使用したという報道もありま す。(7)(8)

2003年に米国IEEEにおいて「IEMI(Intentional Electromagnetic Interference:意図的な電磁波妨害)」なるセッションが新設され、その後もこの問題に関する学会レベルでの検討が続けられています。

4.おわりに

「EMC」の「C」は「Compatibility(適合性)」であり、「EMC」の分野において「悪意による妨害行為」を論じることは「C」の範囲を逸脱しますが、「電磁波攻撃」対応の「高度のイミュニティ性能」の検討は、「EMC」と類似の技術分野であることから、あえて誌上において注意喚起をさせていただいた次第です。

  1. E.V .Keurenほか,Electronic Terrorism and Sabotage, EMC Technology,March-April,1992, P .27,
  2. Don White, HERF and Electromagnetic Terrorism, emf-emi control, April-June 1996,p.17,
  3. Electromagnetic link to TWA800 studied, THE BOSTON GLOBE, July 14,1998,
  4. J.T.McKenna, NASA, Pax River Study Possible EMI Impact on Flight 800,AVIATION WEEK&SPACE TECHNOLOGY, November 2,1998,
  5. NTSB recommends review of jet wiring, USA TODAY, August 24,2000,
  6. E-BOMB, Popular Mechanics, September 2001,P .51,
  7. 「米、電磁波爆弾使用も」、読売新聞 (夕刊)、 2003年 (平成15年) 3月20日(木)、
  8. 「イラク戦争 (電磁波爆弾が実戦で初めて)」、毎 日新聞、2003年 (平成15年) 3月27日 (木)、