熱とは何でしょう? 一般的には分子の振動と言われています、しかしその実際の挙動は多くの多彩な現象に満ちています。ここでは熱解析(熱シミュレーション)の実態とその取り扱いを見ていきましょう。

1.伝熱の三態

高校でも習ったように、熱の伝わり方には伝導・対流・輻射の3つの基本形態があります。シミュレーションでそれらを扱う考え方や技法はそれぞれ異なります。

<熱伝導>

主に固体の中に熱が伝わる時、繋がった固体分子の振動が隣の分子に次々に広がる状況の事を言います。金属など熱が伝わりやすい物質もありますし、樹脂や鉱物のように熱が伝わりにくい物質もあります。一般的に温度やその他の条件が変われば、熱の伝わりやすさ(熱伝導率)は変化します。また、蒸発や凝固のような相変化が起こる場合は、大きな潜熱が発生します。

<対流>

対流は、空気や水のように流動性のある物質で、流れによって熱が運ばれることです。対流には、ファンやノズルによって流れを動かす強制対流と、流体の温度差や密度差によって流れが起こる自然対流の2種類があります。対流がある場合は、乱流の取り扱いが重要になりますが、ここでは触れません。また、流れが起こるという事はどこかで渦ができるという事であり、熱伝達は表面の接線方向流速で決まるので、熱設計で重要なテーマです。

<輻射(放射)>

離れた場所に赤外線などの電磁波で熱が伝わるのが放射です。放射が正しい学術用語ですが、誤解される事もあるので、今でも輻射と呼ばれることは少なくありません。輻射は関係する面同士の輻射エネルギーのやり取りで熱の授受量が決まります。主に面の立体角や輻射率が熱授受量を支配します。またCO2や水蒸気など、流体自体が輻射性を持つ場合もあります。

2.熱解析(熱シミュレーション)で伝熱の三態をどう扱うか

固体の熱伝導は支配方程式が決まっており、伝熱量は温度勾配と熱伝導率で決まります。対流は流れの支配方程式の中に、対流項と熱発生項を組み込んで解きます。輻射はステファン・ボルツマン式で表面の熱授受量を計算します。いずれも離散化した式を数値的に解く訳ですが、それぞれに難しさがあります。

熱伝導では異方性を扱う場合があります。例えばプリント基板では平面方向と厚み方向の熱伝導率が大きく異なる場合があります。また、異なる物質が接触している場合、その熱伝達係数をいくらに見積もるかは一般的に難しい事柄です。凝固・融解を考慮する場合は潜熱をエンタルピー法などで扱う必要があります。潜熱放出量が温度依存性を持つ問題もあります。

対流では、乱流の扱い方によって、流れの中の熱の伝わり方が大きく異なります。従来はk-εモデルなどのRANS系乱流モデルが使われて来ましたが、最近はLESなどの空間平均モデルに置き換わっています。RANSは、特に熱関係のシミュレーションでは間違った結果を出しやすいので注意が必要です。また、流れ場が非定常に変化する時、流れの中の熱の伝わり方が変化します。特に剥離の起こる遇角部と、境界層近傍で顕著な変化が起きる場合があるので、注意が必要です。

輻射では、評価する面の数の自乗に比例して計算量が増えるので、大きなモデルでは計算リソースを含めて工夫が必要です。モンテカルロ法やマルチフラックス法は解析精度が落ちるので、最近はラジオシティ方やそれに準じる輻射熱授受量の評価方が、精度と計算速度の両方を兼ね備えています。輻射に加えて熱伝導・対流を同時に考慮しなければならない問題も増えています。

3.熱解析(熱シミュレーション)の結果をどう読み解くか

実務としての熱解析(熱シミュレーション)において重要なのは、実は解析モデルを作ることでも条件設定でもありません。それらはある程度時間を掛ければ誰でも出来ることです。最も重要なのは、解析結果を見てそれに適確な評価を下し、その機器なり工法での有効な対策を立案することです。

そして、解析の依頼主に結果説明をした際、「この渦はどこから来ているのか?」、「配置や吹き出し方を変えたら、流れはどう変わるのか?」というような質問に、その場である程度答えられなければなりません。厳しいと思われるかも知れませんが、それが実務での現実です。そしてそれが出来なければ、結果がどんなに素晴らしくても評価される事は少ないです。

要は数値シミュレーションで最も大切なのは、結果を解釈して役に立つ提案に換える力です。どんなに才能があり頭が良い人でも、ここは経験値がものを言います。携わった解析の件数、どれだけ広い幅の解析に関わったかがここで試されます。その力を鍛えるには学会発表などでの他流試合が有効です。

4.熱解析(熱シミュレーション)はどこへ向かうか

<大規模化・複雑化>

コンピュータの発達により、シミュレーションでは昔より遥かに大きくて複雑な問題を扱えるようになりました。例えば格子数で1億グリッドを越えるような解析は京のようなスーパーコンピュータでしか出来なかったのが、今は時間さえ掛ければ普通のPCで可能になっています。しかしその代わり、データ作成や条件設定などのプリ処理や、結果可視化などのポスト処理への負荷が大きくなっている事も事実です。結果を読み解く際に、操作に時間が掛かっては意味がありません。

<3次元CADデータの利用>

どの産業界でも3次元CADデータの活用が急務になっています。電子関連の熱解析も例外ではなく、デジタルカメラやドライブレコーダーなどコンパクト化に伴う熱設計の最適化が重要な課題です。その際、2.5次元ではなくフル3次元データでの解析が必須です。しかし数10種類の異なる熱物性値の取り扱いや、個々の部品への発熱量割り当ては、なかなか容易ではありません。

<マルチフィジックス化>

熱現象に伴い、他の物理現象の考慮も重要になって来ています。例えば電気電子系のシミュレーションでは、電場・磁場・流れ場などとの連成解析が必要な場合があります。他の分野では、化学反応を考慮する事が必要な場合がありますが、反応熱・反応速度は温度の関数なので、解明が極めて難しい問題です。流れが極端に遅い場合や、非ニュートン粘性を示す場合や、ナノマシンなど解析スケールが極端に小さい場合、臓器などの医学系のシミュレーションなどもまだまだ研究が始まったばかりで、熱解析(熱シミュレーション)の適用と普及拡大はまだまだこれからです。

(著)株式会社 環境シミュレーション