1.マルチメディア機器のEMC試験とノイズ規格

マルチメディアのEMC(電磁両立性)の国際規格としては、CISPR32(エミッション)、 CISPR35(イミュニティ)が適用される。CISPR32はCISPR13(音声およびテレビジョン受信機ならびに付属装置の妨害特性の許容値および測定法)、および CISPR22(情報技術装置からの妨害波の許容値と測定法)が統合されたものであり、CISPR35はCISPR20(音声及びテレビジョン放送受信機並びに関連機器の無線妨害波特性の限度値及び測定法)、および CISPR24(情報技術装置におけるイミュニティ特性の限度値と測定方法)が統合された規格となる。機能として、試験評価されることが特色で、規格内の付則に機能に応じた試験条件やイミュニティの性能判定基準が定まっている。

適用機器例)
PC、プリンタ、TV、AV機器
PC、プリンタ、TV、AV機器

CISPR32およびCISPR35の試験項目としては、下記の表となり、様々な試験条件が規格で規定され、印刷機能や表示機能などの機能によって、性能判定基準等固有の条件が規定されている。

マルチメディア機器のEMC試験項目
EMI試験(エミッション測定)(CISPR 32) イミュニティ試験(CISPR 35)
伝導エミッション測定(電源) 静電気放電試験 IEC 61000-4-2
伝導エミッション測定(通信線)
基本はAANを用いて測定とし、代替え法として、CP&CVPなどを用いた複数の試験方法がある。
対象例)LANポート、電話回線
放射無線周波電磁界試験 IEC 61000-4-3
  • 1GHzを超える周波数で、特定周波数での試験要求有。
  • IEC 61000-4-3/IEC 61000-4-20/IEC 61000-4-21の3規格サイズなど条件が合えば、どれを使用してもよい。
放射妨害波測定(電界)30 MHz - 1000 MHz 電気的ファストトランジェント/バースト試験
IEC 61000-4-4
放射妨害波測定(電界)1 GHz - 6 GHz
内部動作運用周波数によって、測定周波数範囲が定まる。
  • 家庭用衛星放送受信システムの屋外ユニットは18 GHzまで測定がある。
広帯域インパルス試験
  • CISPR 35オリジナル規定
    CPEのxDSLポートのみ適用される。
サージ試験 IEC 61000-4-5
伝導妨害試験 IEC 61000-4-6
印加レベル周波数に応じて3Vから1Vに減少
電源周波数磁界試験 IEC 61000-4-8
電圧ディップ・瞬断試験 IEC 61000-4-11

2.CISPR 35 特有の試験方法および限度値について

1) 広帯域インパルス雑音妨害試験

広帯域インパルス雑音妨害 発生例

CISPR35で初めて規定される試験法で、広帯域インパルスノイズの耐性を見る試験であり、単一の周波数ではなく広帯域周波数のノイズを同時に印加することが特色で、繰り返しノイズインパルスと単独ノイズインパルス2種類あり、xDSLポートに印加される。

試験手順は、IEC61000-4-6に定義されたCDN法を基にしているが、信号発生器は、ホワイトノイズのバーストを発生できる(任意)発生器に置き換えられている。
繰り返しインパルス試験:交互少なくとも2 分間印加すること。バースト長/バースト間隔は0.5 ms/0.3 ms(60Hz) or 10 ms(50 Hz)
単独インパルス試験:続くインパスルルスと少なくとも60秒間隔で最低5個の単独インパルスを印加すること。バースト長は0.24 msで間隔は10 ms /300 ms

2) 連続性無線周波数電磁界妨害及び連続性誘導無線周波数妨害の周波数掃引ステップ

伝導および放射における連続性無線周波数の掃引ステップを、試験時間の短縮を目的に4%ステップを認めている。 これはCISPR/I/WG4シドニー会議(2009年)における審議で日本から主張されたもので、大型通信システムでは合否判定時間が特に連続性無線周波数電磁界妨害では、1モードあたり1週間以上の試験時間が必要となり、実務的にも経済的にも非現実的な試験であり、4%以下の掃引ステップによる試験を許容するものである。

3) 連続性誘導無線周波数妨害の印加レベルと判定基準

連続性誘導無線周波数妨害の印加レベルはCISPR24および基本規格では、3 V均一であるが、CISPR35では周波数が上昇するにつれ1 Vへ下がる印加レベルとなっている。これは1994年のCISPR/G/WG3北京会議で、

  1. 3 Vとすると国内外の電話機の全てが規格を満足しない。
  2. 世界中で使用されている電話に顕著なイミュニティ上の問題が発生しておらず、提案試験レベルは実態に合わない。

2点のコメントを日本から提出し、試験レベルの再考を求め、屋外に架設された通信ケーブルに誘導する伝導妨害波の測定結果と同一EUTを用いた伝導イミュニティ試験(試験レベルを3 V一定)と放射イミュニティ試験(電磁界レベルを3 V/m一定)を比較した下記の結果を報告し、これをもとに現在の基準として規定することとなった。

  1. ケーブルに誘導する電圧は一定ではなく10 MHz以上では20 dB/decadeで減少する傾向がある。
  2. 伝導と放射イミュニティ試験時の復調ノイズレベルは、周波数が10 MHz以上では周波数の増加と共に乖離が増加する。
  3. 以上より10 MHzの試験レベルは修正すべきである。

(著)日本品質保証機構