EMC最新動向2019-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-
あけましておめでとうございます。
東京オリンピック・パラリンピックを来年に控え、5Gの運用開始が目前となってきました。昨年の電波利用環境委員会では、このために必要な、人体防護に関するさまざまな課題が審議されました。
2月の電波利用環境委員会で、「高周波領域における電波防護指針の在り方」 の検討開始の審議が行われました。これは、平成 25年の情報通信審議会諮問第2035号 「電波防護指針の在り方」 のうち 「低周波領域 (10kHz以上10MHz以下) における電波防護指針の在り方」の一部答申に続き、高周波領域に関する審議を行うものです。科学的な根拠に基づく国際的なガイドラインとして広く認められている国際非電離放射線防護委員会 (ICNIRP) のガイドライン及びIEEE/ICES/TC95の安全規格の改定が進められていますが、それらの完了を待たずに高周波領域の電波防護指針を改定することになりました。5Gで利用されるミリ波領域の指針を国際的に整合することが望ましく、ミリ波領域の指針値を、検討中の国際的なガイドラインの考え方を取り入れたものとするものです。名古屋工業大学の平田晃正先生が作業班の主任を務めました。平田先生はICNIRP及びIEEE/ICESの両方で活躍されており、国際的なコンセンサスを見据えた改定案が作られました。報告書は9月12日の情報通信技術分科会に報告され、答申がなされました。
新たなミリ波帯の防護指針を適用するためには評価方法を定めることが必要です。携帯電話端末のように人体に近接して用いる機器については、これまで局所SARの測定方法は定められていましたが、ミリ波帯では局所SARではなく、入射電力密度で指針値が定められています。しかし、人体近傍での電力密度の測定方法は未確立だったことから、昨年4月に総務省情報通信審議会に諮問第2042号「携帯電話端末等の電力密度による評価方法」が諮問され、電波利用環境委員会で審議が開始されました。作業班の主任は情報通信研究機構の渡辺聡一氏が務めました。この課題については、国際的には、国際電気標準会議 (IEC) のTC106とIEEE/ICESのTC34と連携して標準化が行われています。わが国からはNTTドコモの大西輝夫氏が両組織で中心的な役割を担っています。国際標準化の完了を待つ猶予はないことから、わが国での審議が先行することになりましたが、国際標準の考え方を踏まえた 「携帯電話端末等の電力密度の測定方法等」 についての一部答申が12月12日の情報通信技術分科会で承認されました。
電波利用環境委員会では、電気通信技術審議会諮問第3号 「国際無線障害特別委員会 (CISPR) の諸規格について」 に対する一部答申案としての委員会報告を継続して行っています。昨年は、I作業班で準備を進めてきた、国際規格 CISPR 35 第1.0版 (2016-08) 「マルチメディア機器の電磁両立性 ? イミュニティ要求事項」の委員会報告書が取りまとめられ、12月12日の情報通信技術分科会に報告され、答申されました。
電波利用環境委員会では、CISPR釜山会議の対処方針も情報通信審議会に報告しました。総会の重点審議事項はこれまで同様に、ワイヤレス電力伝送でした。昨年は新たにWPTAAD (Wireless Power Transfer At A Distance) 「ある程度の距離の無線電力伝送」 と呼ばれる技術を、CISPPR/Bにおいて取り扱う方向性が示されましたが、わが国での取り組みと歩調を合わせることが今後の課題となりそうです。
WPTAADは、無線障害の問題だけでなく、人体防護の観点からも注意深い取り組みが必要な技術です。昨年のTC106総会はスウェーデンのキスタで開催されましたが、そこでWPTAADの人体ばく露評価方法についてのアドホックグループが設置されました。わが国からもエキスパートが参加することになっています。TC106に関しても、多くの報告すべき話題がありますが、低周波委員会及び高周波委員会からの報告をご参照頂きたいと思います。
電波利用環境委員会及びTC106の活動は、多くの方々の献身的な努力によって支えられています。ご関係の皆様に感謝申し上げるとともに、本年も皆様のご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。