ウェアラブル ECG におけるコモンモードノイズ除去回路(月刊EMC)

2018.8.30 更新
ウェアラブル ECG におけるコモンモードノイズ除去回路(月刊EMC)

【心電図信号検出回路に対するコモンモード等価回路】

 近年、少子高齢化社会の到来に伴い、医師不足等の問題が深刻化している。このような問題を背景に、日常生活における血圧や体温、脳波、心電図(ECG : Electrocardiogram)などのバイタルデータを自動で収集するウェアラブルデバイスが注目を浴びている。特に、近年の高齢化社会において心臓病は大きな問題の一つであり、心臓病の早期発見を可能にするため、日常生活において常に心電図を監視することは重要である。

 そこで、ウェアラブルデバイスに無線通信機能を持たせ、バイタルデータを取得し、インターネットを経由して病院や医療センターに情報を転送することで、体調管理の負担を減らすことが期待される。心電図信号は、一般に複数枚の検出電極を皮膚に直接貼り付けることで検出される。しかし、検出電極の接触状態が互いに異なり、検出電極の接触抵抗値間にアンバランスが存在すると、外部電磁界により心電図信号に生じるコモンモードノイズがディファレンシャルモード干渉電圧に変換され、心電図信号の検出品質の劣化を招く。

 外部電磁界の周波数が事前にわかる場合には、フィルタを用いた干渉電圧によるノイズの除去が可能であるが、その周波数が不明な場合には接触抵抗間のアンバランスの消去による対策は有効である。本稿では、心電図検出電極の接触抵抗間のアンバランスを検出・キャンセルするための回路構成を提案し、外部電磁界によるコモンモードノイズの低減に対する有効性を示す。


干渉電圧の発生機構

 本研究で使用を想定している心電計において、心電図信号は人体に直接貼り付けられた 2 枚の検出電極で互いに検出された信号を差動増幅することで得られる。大地に立つ人体に外部電磁界が入射されると、人体と大地の間にコモンモードノイズ電圧 Vc が生じ、差動増幅回路でディファレンシャルモードに変換され、干渉電圧 V o として回路出力に重畳される。

 その等価回路を図に示す。ここで、R e1 、R e2 は検出電極と人体との接触抵抗、R s 、R f は差動増幅回路用抵抗、C s は回路グラウンドと大地間の寄生容量である。

 2 枚の検出電極の接触状態が互いに異なり、検出電極と人体との接触抵抗値 R e1 、R e 2 がアンバランスとなれば、干渉電圧 V o が差動増幅回路の出力に現れ、心電図信号に重畳される。ここで、接触抵抗値 R e1 、R e 2 のバランスが取れた場合、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換が起きず、干渉電圧 V o がゼロとなり、心電図信号にコモンモードノイズが重畳されなくなる。

続きは『月刊EMC No.352』にて


【月刊EMC No.352 目次情報】

<特集>
◇基礎講座!EMC 設計とシミュレーション
・EMC 設計の基礎
 (拓殖大学 高橋丈博)
・ケーブル・プリント基板・筐体の放射ノイズに関する数値シミュレーションの基礎事例
 ((株)JSOL 志賀章紀)

<Technology>
・パワーエレクトロニクスのEMCーEMC 設計の基礎
 ((株)e ・オータマ 佐藤智典)
・ウェアラブルECG におけるコモンモードノイズ除去回路
 (名古屋工業大学 王建青)

<Information>
・CISPR 杭州会議 I 小委員会報告(IT、マルチメディア機器及び受信機のEMC)
 (情報通信審議会情報通信技術分科会 雨宮不二雄)

<New&Now 規格・規制情報>
・半導体EMI 試験規格とVDE 法解説
 ((株)東芝 生産技術センター 飯田幹也)

<実践講座>
・対策事例に学ぶパワーエレクトロニクスのノイズ対策 ⑤
 ノイズ障害対策編(その2)
 (双信電機(株) 碓氷哲之)
・EMC測定・試験のポイント-2.EMC測定・試験は何故必要か
 規制の法的枠組みと動向 ⑥
 イミュニティ規格の必要性と規格値・試験法に関する基本的な考え方
 ((株)ノイズ研究所 石田武志、(株)東陽テクニカ 中村哲也)
・製品の信頼性を高めるLSI のEMC 設計 ⑥
 現象別半導体集積回路の電磁両立性検証(2)
 (ローム(株) 稲垣 亮介)

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