【心電図信号検出回路に対するコモンモード等価回路】
近年、少子高齢化社会の到来に伴い、医師不足等の問題が深刻化している。このような問題を背景に、日常生活における血圧や体温、脳波、心電図(ECG : Electrocardiogram)などのバイタルデータを自動で収集するウェアラブルデバイスが注目を浴びている。特に、近年の高齢化社会において心臓病は大きな問題の一つであり、心臓病の早期発見を可能にするため、日常生活において常に心電図を監視することは重要である。
そこで、ウェアラブルデバイスに無線通信機能を持たせ、バイタルデータを取得し、インターネットを経由して病院や医療センターに情報を転送することで、体調管理の負担を減らすことが期待される。心電図信号は、一般に複数枚の検出電極を皮膚に直接貼り付けることで検出される。しかし、検出電極の接触状態が互いに異なり、検出電極の接触抵抗値間にアンバランスが存在すると、外部電磁界により心電図信号に生じるコモンモードノイズがディファレンシャルモード干渉電圧に変換され、心電図信号の検出品質の劣化を招く。
外部電磁界の周波数が事前にわかる場合には、フィルタを用いた干渉電圧によるノイズの除去が可能であるが、その周波数が不明な場合には接触抵抗間のアンバランスの消去による対策は有効である。本稿では、心電図検出電極の接触抵抗間のアンバランスを検出・キャンセルするための回路構成を提案し、外部電磁界によるコモンモードノイズの低減に対する有効性を示す。
本研究で使用を想定している心電計において、心電図信号は人体に直接貼り付けられた 2 枚の検出電極で互いに検出された信号を差動増幅することで得られる。大地に立つ人体に外部電磁界が入射されると、人体と大地の間にコモンモードノイズ電圧 Vc が生じ、差動増幅回路でディファレンシャルモードに変換され、干渉電圧 V o として回路出力に重畳される。
その等価回路を図に示す。ここで、R e1 、R e2 は検出電極と人体との接触抵抗、R s 、R f は差動増幅回路用抵抗、C s は回路グラウンドと大地間の寄生容量である。
2 枚の検出電極の接触状態が互いに異なり、検出電極と人体との接触抵抗値 R e1 、R e 2 がアンバランスとなれば、干渉電圧 V o が差動増幅回路の出力に現れ、心電図信号に重畳される。ここで、接触抵抗値 R e1 、R e 2 のバランスが取れた場合、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換が起きず、干渉電圧 V o がゼロとなり、心電図信号にコモンモードノイズが重畳されなくなる。
続きは『月刊EMC No.352』にて
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