EMC最新動向2018-業界の主要機関がEMCの最新動向を語る特別企画-
一般社団法人日本電機工業会(JEMA)では、IEC及び国内でのEMC/EMFの議論に迅速に対応するため、家電分野、産業分野、新エネルギー分野の各分野に対応する委員会で審議を行っている。主な取組を紹介する。
○家電分野
家電分野では、CISPR/Fで検討しているCISPR 14-1(家電及び類似機器のエミッション)において、家電のサーモスタットやリレーのオン/オフによる、ごく短時間のノイズであるクリックの測定方法、統計的評価方法の検討タスクフォースに、日本からエキスパートが参加して検討を行った。また、他国からの放射妨害波の測定周波数域の拡張提案では、日本より測定方法の提案を行い、審議を行っている。
IEC/SC77A(低周波EMC)においては、高調波のエミッション限度値規格を検討しているWG1、フリッカ・電圧変動のエミッション限度値規格を検討しているWG2に参加し、製品固有の定義・試験条件などについて、日本意見の反映に努めている。
○産業分野・新エネルギー分野
産業分野では、インバータ・サーボなどを対象としたIEC 61800-3[可変速駆動システム(PDS)のEMC]の第3版が2017年2月に発行された。また、2016年11月に発行されたIEC 62040-2[無停電電源装置(UPS)]の第3版との整合を目的として、JIS C4411-2の改正作業に着手した。改正原案は、2018年6月に作成完了する予定である。
新エネルギー分野では、日本が新規提案し、リーダーを務めたIEC 62920(PV用パワコンのEMC)が2017年7月に制定された。今後、制定作業時に懸案となっていた事項を取り込むべく、改正作業に着手する予定である。
CISPR/B(工業、科学及び医療用装置)では、2015年に発行されたCISPR11第6版で盛り込まれたPV用パワコンの直流ポートのエミッション限度値・測定方法について、PV用パワコン以外の変換装置へ適用を拡大する作業が続けられている。新たに発足したAHGのリーダーを引き続き日本が務め、まずは第6版検討時に海外から要望が出されたPVに用いるDC/DCコンバータと、日本が技術的優位にあるパワコンの蓄電池用直流ポートに限定した部分改正案を作成することが合意された。限度値適用時の試験条件など、日本意見を反映したAmendment 1のCDVが回付されており、2018年中に成立する見込みである。
CISPR/B/WG1では、全ての変換装置の直流ポートへの適用拡大、現在は規定がない1GHz超の放射エミッション限度値の取入れ、大型装置の現地試験方法の見直し・代替試験方法の検討も開始されており、2016年にJEMA内に新たに発足したWGで対応を検討している。
○全般
IEC/SC77A/WG8(電磁環境)では、一部の機器を除いて規定がない2~150kHzの周波数帯域の両立性レベルの規定化が検討されている。2~30kHzについては、2017年6月に公共低圧系統の両立性レベルを規定しているIEC 61000-2-2のAmendment 1が発行され、議論が難航していた30~150kHzについても、Amendment 2のCDVが可決された。特に30~150kHzの決定においては、機器から発生するノイズが欧州の一部の国で使用されている電力線搬送(PLC)の通信障害の要因となることが懸念され、議論が難航していたが、JEMAで行った実証試験によって、通信障害はPLCの仕様・通信方式、配線など、機器からのノイズ以外の要因に大きく依存し、欧州の電力・通信事業者が要求していた過度に厳しいレベルに技術的根拠がないことを立証したことによって、機器業界が提唱するレベルに近い妥協案で合意された。
IEC 61000-2-2の改正作業が収束に向かったことから、機器が適合すべき限度値の議論が活発化している。2~9kHzについては、既にSC77A/WG1で議論が開始されており、測定器の仕様、限度値の基準(電圧・電流)などについて議論されている。
9~150kHzについては、CISPR/HとSC77AとのJWGを新設することが決定された。2018年中にもJWGが発足し、限度値策定に向けた作業が開始される見込みである。
CISPR/Hでは、高周波エミッションの共通規格において、直流電源ポートの伝導エミッション限度値取入れ、150kHz~30MHzの放射エミッション限度値などが検討されている。共通規格は、製品規格作成時に基礎とする位置付けとなっており、共通規格で取り込まれた規定は、製品規格でも取り込まれる傾向にあるため、機器業界としても議論を注視し、業界意見の反映に努める必要がある。
国内においては、TC77(電磁両立性)、・TC106(人体ばく露に関する電磁界の評価方法)の各分野において、国際規格に整合したJISの制定・改正作業が行われており、JEMAも原案作成に参加している。また、一般社団法人電気学会・一般社団法人電気設備学会の調査専門委員会などにも参加・協力している。
<まとめ>
IECでは、EMC基本規格・製品規格の制定・改正作業が活発に行われており、ますます重要性が高まっている。JEMAでは、実証試験等によって、機器の実態調査だけではなく、障害要因を含めた原因分析・対策方法を検討している。このような検討結果を基に、直接関連する製品規格はもちろん、間接的に影響を受ける基本規格の審議にも積極的に参加し、業界の意見を反映するとともに、完成度の高い規格作成に寄与している。
国内においては、JEMAの取扱製品分野について、IECに整合したJIS原案作成を進めると同時に、関連法規の見直し、基本規格のJIS原案作成などに協力している。
JEMAとしては、関連業界と協調を図りながら、引き続き国内外のEMC/EMFの標準化活動に取り組む所存である。